主張

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【2025.2月号】医療薬の供給が止まるのは、低医療費政策の現れである

 インフルエンザの流行期に入り、ますます保険薬の供給がおかしくなっている。
 これは単なる需要増に起因した薬品不足ではなく、わが国の医薬品行政や医薬品産業構造の積年の疲弊であり、より根本的な人間の安全保障への軽視による結果である。
 臨床現場での例を挙げると、マイコプラズマの流行が喧伝されているが、クラリスロマイシンなど中核的な抗生物質の供給は全く不安定であり、その前に話題となった劇症型溶連菌治療に欠かせないペニシリン製剤の供給も改善されていない。
 インフルエンザの流行で必要が予測されていたタミフル(オセルタミビル)も流行と共に供給停止の羽目になった。咳止めも相変わらず供給不良で最近は去痰剤も供給停止状態にある。さらに気管支喘息発作時に不可欠なステロイド系静注製剤もいくつもの製品が供給停止になっている。こうした問題が解決できない根本的原因は、わが国の積年の低医療費政策にある。

予算編成の問題点
 新年度予算案をみると、米国の軍事戦略に乗せられた「有事」対策に約8兆円という巨額の出費が予定されている一方で、医療費抑制がさらに強化され、薬価の切り下げで2466億円(国費は648億円)を削減し、薬剤供給安定化対策では後発品最低薬価の引き上げに約300億円増といった程度である。これでは供給不足の解決になるのか全く疑問である。
 昨年末の厚労関係の補正予算をみるとよくわかるのだが、医療DX関連の補正が1440億円台だったのに対し、医薬品供給安定化のための補正は200億円にも満たず、製薬業界も赤字の薬は作らず、会社の業績悪化を避けることを優先する構造は変わらない。ジェネリック業界も多種少産体質から再編を進めて少種多産体制にする方針を掲げているようだが、製造能力を持つ先発メーカーへの指導はどうなっているのか。
 もう一つ隠された問題があり、それは円安ドル高の中で原薬の海外依存からくる原価の上昇やその輸送費の値上がりがある。海外輸入の原薬の品質も心配なのだが、国内の医薬品産業の自給体制や製造能力の低下が明らかなのである。
 医薬品不足は国民の健康維持、すなわち人間の安全保障の低下にかかわる政治問題でもある。少数与党と野党間の政治ゲームが繰り広げられ、7月には参議院選挙も予定されているが、今は米国追従の軍事的武装強化に走るのでなく、民生事業での国力強化に注力することが政治に求められている最大の課題である。