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【2024.9月号】今、戦争している場合じゃない、気候変動への備えに本気でかかるべきだ

 今から28年前、米国の「社会的責務のための医師会(PSR)」が発行した「地球の危機的状況―人の健康と環境」という邦訳本が発行されていた。1985年に、PSRが核戦争防止国際医師会議(IPPNW)とともにノーベル平和賞を共同受賞したのは、核戦争がもたらす環境破壊を明らかにし、米ソ冷戦に抗して核軍縮を推進する国際的世論形成への役割を評価したからである。
 こののち、当時のレーガン米大統領とゴルバチョフソ連共産党書記長が4度にわたる首脳会談を行い、戦略兵器削減条約(START)交渉や中距離核弾頭全廃条約(INF)等の核軍縮交渉への道を切り開いたことは多くの人の記憶に残っている。
 実はこの流れの中で、19082年に特定通常兵器使用禁止制限条約が発効していることも忘れてはならない。この条約は「過剰な傷害または無差別の効果を発生させると認定される通常兵器の使用を禁止または制限する多国間条約」(国際法)である。この条約の流れでのちに対人地雷禁止条約やクラスター弾禁止条約も成立していったのであるが、イスラエルをはじめ一部の国が一部議定書には署名しないといった実態もあり、現実のガザ攻撃をみれば実効性が伴っていないことは残念である。
 このPSRが当時問題にしていたのは核の脅威だけではない。成層圏のオゾンの枯渇、野生生物生息環境の破壊、生物種の絶滅、地球の温暖化、有害化学物質や放射性物質による大気、水質、土壌の汚染も挙げられていたのである。
 まさに今日的な地球の平均気温の増加、干ばつ地帯や水害地帯の増加、PFAS(有機フッ素化合物)による水質汚染、プラスチックによる海洋汚染などがすでに警告されていたといってよい。
 2019年に中国から始まったCOVID19のパンデミックも、こうした地球環境や生態環境の変化とも関連しているかもしれない。農業に適した農地の少ないイスラエルがパレスティナ先住民の農地を奪う入植を行ってヨルダン川の水源を確保するのも、彼の地の干ばつ乾燥と関係しているという説もある。
 朝鮮半島北部も気候変動による乾燥化が進み、地球環境の変化による土壌の劣化で大雨に耐えられない国土の実態を指摘する専門家もいる。
 思えば60年代からPSRはこうした環境変化が人類全体の生存環境を悪化させ、健康上のマイナス影響をもたらす可能性を指摘していた。新興感染症の脅威のみならず、PFASなど有害物質の体内汚染による免疫力低下や発がんの脅威にも曝されているといってもよい。
 今、世界は戦争をしている場合ではない。人殺しの武器の開発や購入に膨大な費用をかけている時ではない。すぐに停戦し、壊れかけている地球環境に全世界で立ち向かわなくてはならない。その解決のために政治家が存在していることを忘れてはならない。わが協会もこのための世論づくりに一役買おうではないか。