【2021.7月号】新型コロナワクチン接種で疲弊する小規模医療機関に十分な財政措置を求める
新型コロナワクチンの個別接種が始まって1か月が経過した。県内でも多くの診療所がかかりつけ医としての責務を果たそうと奮闘している。
しかし、この負担は想像以上に医療機関を疲弊させる。第一に電話予約が原則ということで、診療時間内の電話対応に追われ、日常業務に支障をきたしている。第二に、ワクチンの確保や接種計画を抜かりなく立てなければならないという、余分な業務がのしかかる。
この二つだけでも疲弊してしまうところに、通常の診療時間以外の時間で接種をせざるを得ず、対応する職員の確保も大きな負担になっている。
ワクチン予約の実態はどうかというと、高齢者は身近な診療所での接種を希望することが多く、集団接種会場への予約に空きがあるという話も実際多い。それだけ、地域の診療所への負担が大きいのである。しかも診療所が受け取る接種料は当初1回あたり2070円(人件費、事務費、感染防止対策費用、V-sys入力手数料を含む)という低報酬であった。
これではあまりにもひどいではないかという声に押され、政府は5月25日になって新たな上乗せ策を講じざるをえなくなったのである。
具体的には、7月末までに1週間に100回以上の接種を4週間以上行った場合は2000円、150回以上の場合は3000円を、接種費用に上乗せする。さらに上記とは重ならないが、1日に50回以上のまとまった規模の接種を行った医療機関には、1日当たり10万円を給付するというものである。とにかく、五輪・パラ五輪前に接種する医療機関を増やして、国際的に後れを取っているワクチン接種率を上げたいという国の焦りが垣間見える対策を打ち出してきたということであろう。
週100回以上のワクチン接種をするためには、間違いのないワクチン管理、予約管理、当日の患者待機など、相当神経が疲れる手間ひまが日常診療に加えてかかり、職員体制上の負担も増すということになる。こうした条件を日々クリア―できる診療所が多数に上るとはとても思えない。特に在宅訪問診療を抱えている医療機関には大変な負担がかかる。そもそも午後の空いた時間に定期訪問診察をしているわけで、在宅患者への訪問ワクチン接種を日に1バイアル6人すますということそのものが大変なのである。
とにかく週当たり100回未満の小規模診療所には何の上乗せ処置もないというものであり、この差別化には怒りを禁じえない。
国家的な健康危機に多くの国民が苦労している中で、医療機関だけを特別待遇せよと主張するつもりは毛頭ないが、地域医療体制の確保に必要な財政支援は国の責務であろう。
地域医療の確保にとって欠かせない小規模医療機関の疲弊に対する国の財政支援策のさらなる充実を心から求めたい。