【2021.6月号】各政党は総選挙に向けて、新型コロナを克服する医療のあり方を示せ
新型コロナウイルス感染症の猛威が止まらない。少し止まったかに見えても、変異株による新たな流行の波が続いている。
これまでのパンデミックの世界史を見て気が付くことは、理由が不明確なままに収まってきた歴史がある。スペイン風邪と言われた100年前の新型インフルエンザも決して医療の力で収まったわけではない。どちらかといえば、第一次世界大戦の終結による軍隊や人の移動の収束と社会生活の安定、流行の結果としての集団免疫獲得という社会的現象と弱毒化したインフルエンザ変異株の登場という自然の恵みで収まったように考えられている。今急がれているCOVID-19ワクチン接種の迅速化も集団免疫に期待しての手段である。
このような歴史的な視点からは、決して悲観的になる必要はないのだが、収束するまでの犠牲を最小限に抑える必要があることは言うまでもない。現在必要なことは、新型コロナ流行に対する日本の医療体制の脆弱性を検証し、次の流行に備えなくてはならないのである。
衆議院の解散がなくても、今年10月9日までには必ず総選挙が公示される。残り4か月余りになった現段階で、医療団体としては、各政党に医療にかかわる政策や公約を早く示してほしいということである。その上で国民の審判を受ける選挙であってほしい。
とくにコロナ禍を通じて明確になった感染症医療の危機管理について、例えば以下のような事項について、各政党には説得力のある明確な方針を示してほしいと思う。
1 外国依存になっているワクチン供給の弱点を克服するためにどうするか?
2 新型感染症流行など緊急に生じた医療体制の不足を補う国の方針はどうあるべきか?
3 COVID-19の対策について、これまで統廃合されてきた保健所の機能が改めて問われているが、今後どうすべきか?
4 重症者に対応する大学病院や地域の中核的病院の医師数は現状でよいのか?医師不足に悩む地域に国としてどういう方針で臨むか?
5 高齢者の負担増が目立つ現役世代との「負担のバランス」見直し論についてどう考えるか?健保組合を破綻させないために、保険料の企業負担率や公費負担の在り方についてどう考えるか?
6 後期高齢者の現役並み所得者(現在約115万人、全体の6.8%)が公費負担の対象から外され、その負担金が現役世代(健保や国保)の負担になっている現状をどう考えるか?
7 団塊の世代がすべて後期高齢者となる2025年以降の社会保障費の不足が予測されているが、それを補うためにどういう財政措置が必要と考えているか?
8 保険適用の医薬品価格が高すぎるという意見をどう考えるか?代替するジェネリック医薬品の製造企業の不祥事が相次いでいるが、その品質管理についてはどう考えるか?
上記に列挙した事項はどれも国民皆保険制度の差し迫った問題であり、どれもが政治の課題である。わが国の先進医療国としての国際的評価は、現政権の失策によって地に落ちてしまった。国民の信託を受けて財務省や厚労省を動かす責任を持っている各政党は、それぞれの課題についての考えを明確にして、目前に迫った総選挙で国民の信を問うべきである。