【2021.3月号】高齢者医療費の公費負担のあり方を問う ―現役並み所得者への公費負担で、2割負担は不要になる
菅内閣は、後期高齢者の窓口負担割合をこれまでの1割負担と3割負担に加え、今まで1割だった人の一部に2割負担を導入する法案を通常国会に提出した。この法案を通したい自民党、公明党、維新の会と、反対する野党の力関係から言えば、このままでは法案成立は避けられない情勢である。
高齢者医療費が増加するのは、有病率が高い高齢者の絶対数増加、さらには医療の技術的革新を背景にした検査と医薬の進歩を考えれば当然とも言えよう。
問題はその財源をどうするかであるが、まさに政治問題として各政党や医療関連団体がそれぞれの立場を反映した主張をぶつけ合って来たのである。
では実態はどうなっているのか。高齢者医療費の給付費は2017年度でみると総額15.4兆円(公費47%、本人保険料11%、健保・国保からの支援金42%)で、患者の窓口負担分が1.3兆円となっている。公費は50%ではなかったのかと疑問を生じるが、実は現役世代並みの所得で3割負担となっている高齢者(約7%)には公費負担はないのである。これによる公費の減額はなんと4千億円にもなる。事実上、この4千億円の穴は現役世代の支援金で賄われていることになっている。
このまま今回の法案が成立すると、健保・国保の支援金が2025年度には現状で推移すると推定8兆1千億円に達するが、2割負担の導入で830億円減少し、8兆170億円に減少する効果があるという。
しかし、である。現役並みの所得で3割負担をさせられている後期高齢者にも国が法定の50%の負担をすれば、4千億円もの財源が生まれる。そうすることで、より所得の低い高齢者に2割負担を押し付けなくても済むのである。国保・健保の支援金にも公費負担がされている。ただ一人、現役並み所得の高齢者にだけ公費負担がないのはなぜか、国民や現役並み所得の高齢者に納得いく説明はない。
さらに言えば、消費税引き上げの理由にされる社会保障の充実のためという謳い文句はどこにいってしまったのかという疑問も当然のこととしてある。
保険医協会は、医療保険制度が国民の生存権を守る社会保障の一環であり、経済的理由からの受診抑制があってはならないという立場から、高齢者の負担増を避けるべきという立場である。このためには、不公正な公費負担のあり方も問題にしなければならない。
後期高齢者の2割負担は止められるのである。3割負担とされている現役並み所得の高齢者にも平等に法定の公費負担をすれば、2割負担による引き上げ増収を遥かに超える財源が生まれるのである。
次の総選挙で、野党にはぜひともこうした統一公約を掲げてもらいたいと願う。