【2020.6月号】新興感染症に強い医療供給体制の確保・整備を 県保健医療計画の早急な追加補強を求める
新型コロナウイルス感染拡大の第1波がひとまず落ち着いた局面になった。これまで不眠不休で苦労された保健行政関係者、さらに感染病棟でこれまで経験のない過酷な勤務をされた医療関係者のみなさんに心からの謝意を表したい。
さて、この度のコロナ禍に見舞われたことで、足元にある医療供給体制の問題、特に新興感染症への対応上の弱点が見えてきている。
ここでこの6年間の医療体制の変化を冷静に振り返ってみたい。
2014年の医療介護総合確保推進法と医療法改正によって、都道府県に「地域医療構想」の策定が義務付けられた。その基本方向は、各医療圏域での病床削減、特に公立・公的病院の急性期病床の削減、公民問わず慢性期病床の削減と、病床削減の受け皿としての在宅医療の推進、地域包括ケアシステムの構築ということになった。
昨年9月には病床削減をめざす厚労省によって公立・公的病院を中心とする再編統合対象病院の一方的な名指しという事態になったことは記憶に新しい。
そして、1月下旬から始まった新型コロナウイルスの封じ込め(水際作戦)、2月の横浜港クルーズ船での感染者封じ込め(隔離)が降って湧いたように起こった。
この災禍に対し、わが国の医療体制がどのように対応したか、対応できたか、その問題点の洗い出しとあるべき備えの問題については、今後の専門家による検証を待ちたい。
だがこれまでの県内の医療対応に気になった問題がいくつか浮かび上がった。
その一は、現行の指定感染症法や新型インフルエンザ等対策特別措置法での医療に供する施設の問題である。
現在、指定感染症や新型インフルエンザ用の病床は、県内10病院で48床である。幸いこれまで新型コロナ感染症患者の発生が少なかったことから、陰圧設定の個室の一時転用を含めて収容定員内におさまったようだが、罹患者が多くなった場合は軽症患者を一般宿泊施設へ誘導する計画であった。感染爆発という最悪の事態を想定する場合、県人口368万の感染症対応ベッドが48床で十分なのか、新型コロナだけでなく新型インフルエンザ流行時のことを考えたときにそれでよいのか、院内感染が起こった場合はどうするのか、課題が残る。いずれにしても感染症病床は、地域医療構想の病床やICU病床(現在132床)と別枠に設置されていなければおかしい。
その二は、新型インフルエンザの流行でも共通するPCR検査や抗原検査設備の不足である。この問題では、医療者への感染を防ぐために必要な専用の検査センターが医療圏域ごとに不可欠である。
その三として、新興感染症についての県民への啓蒙、情報の周知徹底のシステムが必要である。テレビでの報道が東京や大阪の様子に集中し、身近な県内の情報伝達が十分でないと思われる。県当局の責任者や県内の感染症の専門家が県内のテレビを一定時間使って、直接県民に呼びかける、正しい情報を伝えるなどの工夫が必要である。
こうした整備計画が、県保健医療計画(第8次2018~23)の感染症対策の項目に追加補強されるべきである。
さらに言えば、1995年に保健所法から地域保健法へ改変されて以来すすめられてきた20年来の保健所の全国的な整理縮小が、今回の新型コロナウイルス感染対応での様々な弱点に反映されている。県民を新興感染症から守るという保健所の基本的な役割の一つを、現時点で見直しておくべきであろう。
以上のような視点に立って、県民の命と暮らしを守るために、県保健医療計画の改定を強く求めたい。