【2019.8月号】医療経済実態調査のあり方を見直し、公正な第三者機関に委ねるべきである
参院選が終わり、いよいよ次期診療報酬をめぐる「秋の闘い」が始まるわけであるが、その前提の資料になる医療経済実態調査はすでに7月末で終了している。
この医療経済実態調査は中医協が実施するものであるが、抽出された約9000箇所の医療機関から、自費診療分を含む収入と給与、医材料、設備費など医業経費に係る経営報告書を提出させるものである。この集計結果は、各種医療機関の損益の代表値となって、診療報酬引き上げ率の根拠として使われるものである。仮に医療機関の収入が一般企業平均以上に伸びているとみなされれば、翌年の引き上げ率がマイナスになる可能性が大きい。
個人の診療所では、開設者の報酬に相当する部分は「給与費」には含まれない。このため「医業損益差額」が発表されると、マスコミはそれがそのまま開業医の収入が月給◯百万円として報道している。これは政府筋の情報をそのまま流しているためである。だがこの中には医師のいわば労賃以外に、土地購入の際の借り入れ返済金、建物や設備の更新のための引当準備金、事業承継の費用(子息の教育費など)は経費外として含まれ、退職金のない自身の引退後の生活費用も全てこの費用も含まれている。このように開業医自身が自由に使うことのできる収入ではないが、しかし閣議で決定する引き上げ率はこの損益差額で左右されてしまうリスクが大きい。また歯科診療所は自費収入が損益差額に含まれてしまうため、診療報酬引き上げ率が抑えられる可能性もある。
さらにこの20年、消費税という「損税」に医療機関は悩まされてきた。ようやく今年から「消費税課税対象費用」という項目が新設されたが、まさに遅きに失している。この間、医療機関がいかに消費税からの圧迫を受けてきたか、マスコミは全く報道していない。
またいつも問題になるのが損益差額の分布であり、政府やマスコミは「平均値」だけを取り上げているが、「中央値」こそ重視すべきというのが保団連の主張である。
平均値には調査票の提出が容易な比較的大きな医療機関の損益が反映され、個人開業医の損益が隠されてしまうのが「平均値」である。だから多数の開業医の損益の実態を表すのは「中央値」なのである
これまで多くの開業医は、医療経済実態調査が大きく報道されるたびに金持ち扱いされてきたのは以上の理由からである。
この調査対象に抽出された個人診療所の回答率は60%台というが、これに当たると連日夜遅くまで取り組まなくてはならず、大変な作業である。調査票も期限までに作れないような個人診療所は調査結果に現れてこないわけである。
このところの政府の毎月勤労統計などの統計不正が相次いだのはご承知のとおりである。政権側に不利な統計が不正に作られてきた実態を考えるとき、改めて診療報酬引き上げ論議の基礎資料となっている医療経済実態調査も、その正しい分析を含めて公正な第三者機関に委託すべきではないかと考える。