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【2018.12月号】県下の在宅医療が充実するための諸条件 ―介護医療院の開設が現状のままでは地域医療は崩壊する

 地域医療構想の大枠が提示されているなかで、最近県内の療養病床の転換意向等調査が公表された。これによると、平成30年の許可療養病床10708床(医療9277、介護1431床)のうち、医療保険で運営する医療療養(20:1)への転換が5412床、同じく回復期・地域包括病床への転換が2413床、介護保険で運営する介護医療院が1178床となっている。なお一般病床へ164床転換し、現在も転換先未定が1486床、廃止が55床となっている。
 県民にとってはもちろん、われわれ開業医にとっても心配なのは、いざという時の地域包括ケアの体制がどうなるかである。つまり、今まで何とか在宅や介護施設で見てきた患者が、介護できない事情が生じた場合、どうなるかという問題である。
 この中での注目は医療・介護療養病床の介護医療院への転換が進むのかどうかである。現在転換予定の内、実際に転換が進んでいるのは451床であるが、東部の1施設60床以外は西部に集中しており、中部や東部での転換が進むのかどうか。また1500床近い未定の療養病床がどうなるのであろうか。
 本年4月に発足した介護医療院は介護保険対応の運営であるが、設置基準でみると看取りが可能な施設であり、在宅困難例の受け入れ先という意味で往診医師や在宅介護者が確保できない時に大きな助けとなる施設である。
 一方で地方自治体(市町)の中では介護医療院への転換が直に介護保険財政を圧迫し、その市町の介護保険料の引き上げにつながりはしないかとの危惧が生じているとも言われるが、本末転倒の議論といわねばならない。
 いずれにせよ、終末期を支える在宅医療の存立条件が危ぶまれている実態を自治体関係者や医療関係者が認識し、その対策を検討しておく必要がある。
その第一は訪問介護ステーションの不足や訪問看護ステーションの脆弱化の克服である。市町の中で24時間対応が何とかできているステーションは実際どのくらいあるであろうか。いざという時に利用できるリアルタイムの実態を市町ごとに開示しておく必要があるが、実際できていない。
 第二に、定期の訪問診察や臨時の看取り往診をする医師の体制の確保である。われわれ開業医の周囲を見渡しても、開業医自体が老齢化し、医師不足に悩むある市では訪問診療を実施している医師の3割は65歳以上の医師という実態であるという。まさに老老介護ならぬ老老医療の時代に入りつつある。
 第三に、公的病院を主体にした地域医療支援病院も医師不足が深刻化しており、民間の中小規模病院に期待される在宅医療支援病院もまた医師不足で在宅対応に十分機能しているとは言えないことである。
 こうした実情を考えるとき、わが県は人生100年時代に見合った安心の医療体制には程遠い実態にあることがはっきりしている。
 今必要なことは、こうした地域医療体制の厳しい実情を県民に知らせ、家庭介護への支援体制の強化、とくに訪問介護ステーションや訪問看護ステーションの安定運営のための公的財政支援をしっかり行い、訪問診療に従事する医師を増やすための自治体自身の取組も強化することが求められている。
 とくに在宅介護が困難になった患者を看取ることのできる介護医療院への転換を円滑に進める必要性を強調したい。