【2019.2月号】勤務医の労働時間規制は地域医療の確保と医療安全の保証に不可欠
1月11日、厚労省は「医師の働き方改革に関する検討会」に対して、“地域医療を支える勤務医”の残業規制は、5年後の2024年4月から年1900~2000時間、月100時間(例外あり)を上限とする案を示した。これは勤務医の休日勤務や時間外に行われるアルバイト先での就業時間も含まれるというが、月166時間の残業を12ヶ月間連続して続けた場合でも病院管理者に労基法上の罰則がないことを意味する。
厚労省提案の上限は月100時間をはるかに超える月166時間になる矛盾があるが、「過労により健康状態が悪い医師が長時間労働を続けることがないような措置をとる」ことで(例外あり)という逃げ道をつくっている。
ところで、今回の1900~2000時間という上限の根拠は2016年の「医師の勤務実態および働き方の意向調査実態調査」で地域医療基幹病院の医師の約1割が1920時間を超えているという調査から設けられた。まさに一人で2人分の働きをしている医師が1割いるということである。2016年に新潟の公立病院で過労自死した女性医師の自死直近1ヶ月の残業時間が177時間であったと伝えられているので、ほぼこの残業時間に匹敵する時間を上限にしていることになる。
ところで、何故医師の働き方改革の問題が注目されているのであろうか。もちろん勤務医の過労自死の問題もあるが、より根本的には度重なる医療ミスの原因が医師の過密な労働状況にあり、医療安全上の大きな問題であること、さらには地域医療を支えている基幹病院からの勤務医の「立ち去り」や医師不足の原因と絡んでいる問題だからである。
そうであるなら、より基本的な対策というのは、若手勤務医が自己研修する時間的条件があり、より健康な状態で救急や第一線診療に立ち向かえる条件の整備である。
現実に大学病院研修医の約9割、救急救命センター勤務医の8割が年1920時間超えの労働時間になっていること自体が異常である。また大学病院等からアルバイトで出向する非常勤医を確保しないと地域医療を支える病院が崩壊する状況にあるのも事実であるが、勤務医の定着に反するような長時間労働の容認は逆効果であり、解決にはならない。
無給医で苦労した時代を経験しているベテラン医にとっては研修医が一人前になるには当たり前と考える風潮が根強くあるが、今や4割近い医師が女性であり、近年の医療技術の専門化の中で十分な臨床経験を積むための条件は大きく変化してきている。
こうした時代に相応しい医師の勤務形態が保障されなければ、勤務医が多忙過ぎる病院勤務から離れ、ひいては地域医療の崩壊現象を加速させることになるのではないだろうか。
厚労省がこうした時代錯誤的な案を提示してくる背景には、将来の人口減少と相まっての医師需給均衡論がある。しかしそれがやってくるのは数十年後とされているのであり、そうした推測で今の若手医師を犠牲にすることは正しいことではない。
今必要なのは医学部入学定員の削減ではなく適正な増員であり、地域基幹病院の外来診療負担の軽減(制限)とそのための診療報酬上の措置(入院医療費の増額)、若手研修医を抱える病院への国の経済的支援策の充実である。