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【2018.11月号】後発品、長期収載品の品質管理は大丈夫か ―厚労省の企業任せの医薬品管理を糺す

 最近、あすか製薬販売の後発品ARB降圧剤「バルサルタン」(先発品名ディオバン)に使われていた中国製の原薬に、発がん物質が混入していたという事態が発生していた。
 「発生していた」としたのは、この情報がスペイン当局から厚労省へ入ったのが6月29日夜であり、直ちにあすか製薬に通報され、これを受けて社内調査が始まり、1週後の7月5日には自主回収に着手、8月21日には回収終了したとされているからである。国内ではあすか製薬以外にはこの中国製原薬は使われていなかったようだが、2014年6月の発売から1年10か月後の16年3月までに約1万9千人に処方されていたと発表された。その後本年8月までの2年5か月間に何人に処方されていたかは不明であるが、昨年9月には不採算という理由で販売中止となっていた。
 7月5日にはEU傘下の欧州医薬品庁が調査検討に乗り出し、8月2日にはこの後発品を最大用量(日本の倍)で7年間服用するとがん発症リスクが5千例に1例の割合になると発表された(この報道は8月14日のMedical Tribune 電子版(日本版)で伝えられた)。
 この問題で気になるのが厚労省の動きである。厚労省が公式に動き出したのは9月25日の薬事食品衛生審議会・医薬品等安全対策部会の安全対策調査会である。この調査会の報告を受けて、10月5日に厚労省医薬・生活衛生局は、「原薬から製造された 160mg錠(最大用量)を販売期間の4年間毎日1錠服用したときの発がんリスクは、1.5万人から3万人に1人が過剰にがんを発症する程度のリスク」との結果を都道府県に事務連絡を行った。これら評価結果は、製薬企業から服用患者に情報提供されるよう関係医療機関等に文書で周知することになった。
 厚労省が医療費抑制策の目玉に挙げている一つが後発品の使用促進である。委託を受けてこの後発医薬品使用促進事業の検証を行ってきた三菱UFJリサーチ&コンサルティングの報告書によると、原薬の海外製造所のある企業の割合が後発品で87.4%、長期収載品でも83.3%になっている。その輸入先を後発品で見ると、中国が53.9%、インドが50.3%と過半を超えている。先発品とされている長期収載品でも中国製造が32.3%となっている。
 この海外製造所の原薬の品質管理は企業の責任にされているが、企業へのアンケートによると企業側のノウハウがない実情や、相手側との連携が取りにくいとか相手国の文化や言語の差などを理由に十分な品質管理が行われていない実態がうかがえる。
 こんなことでは臨床医が安心して後発品や長期収載品を使えることにはならない。健康を維持するための輸入医薬品に発がん物質が混入しているようでは先進国とは言えない。厚労省には「安心、安全な」医薬品管理を行う責任があるのである。