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【2016.3月号】やはりTPPは日本の医療に大きなマイナス影響を与える

 昨年秋、TPP(環太平洋経済協力協定)交渉が「大筋合意」となり、本年2月、条約発効へ参加各国が国内調整を進めるという仮調印が行われた。
 TPPが国民生活にもたらす影響はもちろん医療だけではなく、金融商品やサービス貿易、教育など多岐にわたる。
 だが医療分野でその影響が大きいことが医療関係者にも意外と知らされていない。もう国会での批准の段階に差し掛かってきたというのに、いっこうにその全貌が明らかにされていない。
 そこで保団連政策部の資料を基に、問題点を述べてみたい。
 第一に、知的財産保護の強化という条項から、新薬の特許期間が実質的に延長されることになった。現行では特許出願の日から20年とされている制度であるが、実際には基礎研究、非臨床試験、治験、そして承認審査などがあり、特許出願から販売承認まで10年近くかかっている。販売(保険収載)まで費やしたこの期間を延長することが考えられる条項があるという。
 第二に、特許期間に追加する形で、ワクチンや遺伝子標的薬などのバイオ医薬品にはデータ保護期間(8年)を創設する規定が入る予定である。この結果販売承認からさらに最低8年間は特許が保護され、ジェネリックの参入に障壁が設けられる。「国境なき医師団」が発展途上国の医薬品入手を妨げる最悪の貿易協定として非難しているのはこのためである。
 第三に、原則として、ものであるか方法であるかを問わず、全ての技術分野の発明が、特許取得の対象にされた結果、医療行為での診断・治療・手術法も特許の対象にし得る規定が設けられたことである。こうしたことで特許権料が新たに発生し、医療費高騰につながることから、保険外に据え置かれる可能性がある。
 第四に、医薬品、医療機器の保険収載価格設定の「透明性および手続きの公正を図る」という理由で、加盟国の薬事行政に製薬企業などによる不服審査制度を設けることである。このことで薬価、材料価格の高止まりが心配される。
 第五に、外国企業や投資家が不利益と判断した場合、投資先の相手国を訴えることができるISDS条項が設けられることが盛り込まれたことである。これは特に民間医療保険や新薬の販売にマイナス影響と判断されたときの対抗手段とされている。事実、韓米FTAではこの条項で企業と韓国政府との紛争が生じている。
 以上みたように、医療分野に限っても大きな影響があり、どう見ても日本国民にとって、あるいは日本の医療にとって良いことは一つもないと考えられる。
 TPPの批准を阻止を掲げた保団連の判断には正当な根拠があり、批准阻止を明確にした農業団体や消費者団体などとの共同の運動が広がることを期待したい。