【2016.4月号】県の地域医療構想の実効性に疑問あり 最初に減床ありき、在宅医療だのみでよいのか
先ごろ、県は、団塊世代が75歳以上の後期高齢者となる2025年に、2014年現在の病床数から3199床減とすることを柱とした地域医療構想を公表した。
これによると、救急救命病床、ICU、ハイケアユニット、新生児や小児ICUなどの高度急性期病床が約2800床の減、周術期を含む急性期病床は約3000床の減で両方合わせて5800床が削減される。
一方では、急性期病床からの転床患者、在宅復帰準備の患者や脳卒中や骨折後のリハビリ中の患者を含む回復期病床を約5300床も増床する一方、長期の医療ケアを要する重度の障がい者、難病の末期などの対応を行う慢性期病床は約2700床の削減を図る計画である。
この医療構想では75歳以上の高齢者率が18.8%と予測され、「医療や介護を必要とする人が、今後、ますます増加する」と述べながらも、医療提供体制の整備の内容は「必要病床数」という数字のマジックによって医療費抑制を図るための病床削減が目立っている。そして減床のため、上記の病床からあふれてくる患者は「地域包括ケアシステム」という在宅医療の充実で対応するというのである。
では、その在宅医療をどうやって充実させるのか、その道筋は構想では見えていない。
こうした構想の実効性、実現性はハードにあるのではなく、医療従事者、すなわち人の確保である。例えば在宅医療に従事する開業医の確保にどのような対策があるだろうか。講習会を開くだけでは従事者は広がらないのは言うまでもない。
最大の問題は開業医の在宅医療に踏み出す時間的、かつ経済的余裕をどう作るかであろう。そのためには在宅に関わる看護師、歯科衛生士等のスタッフの確保、診診間連携や連携病院の確保などが必要であるが、医療経営的に負担となる人の確保の問題や、在宅患者用病床の確保への解決策は見えていない。
「川上から川下へ」スムーズに流れるための在宅介護支援の要となる「地域包括ケアシステム」も具体的でなく、開業医の不安や疑問は解消されていないのが実態であろう。
「うっかり手をあげようものなら大変な仕事を押し付けられないか、今の在宅往診患者への対応だけで精一杯、末期がん患者の緩和ケアに誘われても24時間対応なんてとても無理、医師の自己犠牲的な参加に頼るシステムは長続きしない、在宅医療支援歯科診療所に手を挙げたいがとても足が踏み出せない」といった開業医の本音の声に、役所の中で構想づくりや予算づくりに追われて、県当局が真摯に医師に向き合わないのであれば、新たな地域医療構想の実効性はない。
そのためには住民参加型で多職種参加のいろいろなレベルでの「地域医療懇談会」を積極的に開いて、多種多様な意見を行政に反映させる作業が欠かせないと考える。
保険医協会として、高齢者の在宅医療の充実を願うものであるが、今までのような行政の一方通行的な医療構想の実効性に対しては疑問を呈さざるを得ない。県当局はできるだけ多くの住民や医師、医療関係者の意見を集約すべきであろう。今からでも遅くはない。