【2015.12月号】マイナス改定が続けば地域医療が崩れる―医療経済実態調査にみる医療の疲弊
11月4日、厚労省が医療経済実態調査を公表した。案の定、マスコミ報道は「病院は連続赤字、開業医は13.5%の収益」である。病院経営は苦しいが開業医には十分な収入があったという基調である。
だが内実はどうかというと、医科個人無床診療所の損益差額では平均値が2611万円(-1.1%)であるが最頻値では1756万円(-1.9%)と前年よりマイナスである。
歯科個人診療所の損益差額では平均値が1274万円(±0)、最頻値は1111万円(+0.4%)であり、医業継続の費用が十分出せる状態ではない。医科歯科の差が最頻値で見て645万円もあるのは、歯科開業医の平均年齢が若いとはいえ歯科医を養成する人材確保に影響しないはずはない。
収益差額でなく医療収入を表す医業・介護収益でみると、医科平均値で+0.2%であったが最頻値では-0.8%と減収であった。歯科では平均値+0.3%で最頻値では+1.2%と増加したが、自費など保険外収入を除く保険診療収益は横ばいである。
このように医療収入の変化を見ただけでも、消費税増税の影響や実質賃金の低下による受診抑制の影響(患者が受診しない実態)がうかがえるのである。
開業医は、収益差額から家族の生活費をねん出し、かつ施設の改修費用や後継者の育成費用、老後への備えなどをしておかなくてはならない。実際に一般個人診療所の減価償却費は総額でも微々たるもので、減少率も大きく、開業時の投資を食いつぶしながらの経営が実態である。
にもかかわらず財務省は次年度診療報酬のマイナス改定を主張している。理由は社会保障費の当然の自然増を1700億円も削減しなければならないというのだ。アベノミクスとは、社会保障や診療報酬を削って世界一企業が活動しやすい国を作るため法人税を下げ、 その減収を埋め合わせようと消費税を上げようという政策に他ならない。
年金や医療・介護、生保など社会保障にかかる費用は、国の経済にとって決してマイナスの国民負担というものではないことは経済学者の中で明らかにされている。
保育や少子化対策、教育にかかる費用も含めて、社会保障にかかる費用支出は、米国からの先端兵器の購入などとちがってGDPや国民所得を押し上げる経済成長力そのものなのである。
国債残高が1000兆円を超えるから財政危機だという誤ったプロパガンダは、消費税アップや社会保障削減を行うための方便に過ぎない。国債公債の最大の購入者は金融機関や保険会社にお金を出している国民や自治体であり、国債残高が多くても、海外負債の多いギリシャのような経済危機は生じないことは経済学の常識である。国内大企業の350兆を超える内部留保金のわずか1%を社会保障基金に組み入れるだけでも社会保障の削減は不要となる。そのような特別立法を行って真の国の富と国民の幸福を実現させることがリベラルな近代国家の姿であり、政策のあるべき道である。