【2015.4月号】医療制度改革法案は国民の健康増進に逆行する危険性に満ちている
安倍内閣の閣議決定によって、新たな医療制度改革法案の骨子が固まり、4月中の国会審議開始が予定されている。
この改革法案の特徴を一口で言えば、これまで以上の国民の負担増で国庫支出の削減(すなわち社会保障財政の緊縮)を図るものでしかない。このような政策は、経済の活性化どころか国民の財布を締めてGDPの減少をもたらし、国民の健康度を下げ、結果として長期の経済不況を招くものであることは歴史的にも検証されている(スタックラー&バス著:経済政策で人は死ぬか?)。
具体的な懸念でいえば、国保の都道府県運営で収納率が下がって保険料が上がる悪循環が生じかねず、同時施行の医療費・介護利用者一部負担の引き上げで受診・利用需要抑制の結果、GDP減少の一大要因となるだろう。
一方供給面では、公的病院のさらなる統廃合と民間医療法人の経営合理化を図る地域医療連携推進法人によって病床規制・削減が進み、医療従事者の実質的減員が進むことでGDPがまた減少することになるだろう。
これを推進する側の論理は、国の社会保障費負担を削って財政再建、というものである。つまり、社会保障費支出は国の経済的発展の阻害要因だという。
しかしそうした財政緊縮が国民生活の疲弊をもたらし、医療から国民を遠ざけることは明らかである。
ターゲットにされている医療、介護、年金制度は、社会政策でいうセーフティネットであるが、手厚いセーフティネットで知られているイギリス、カナダ、ドイツ、フランス、北欧が社会的発展の遅れた国と考える人はいない。
逆に、国民のわずか1%に冨が集中するという米国の現状は、貧富の格差が生む社会的不安の増大に満ちているようである。
2007年公開の映画「シッコ」で告発された米国の悲惨な医療実情は、国民皆保険をめざすオバマケアが始まった今もなお本質的な変化はない。複雑怪奇なオバマケア保険を扱う医師は3分の1に過ぎず、オバマケア後経営が成り立たない開業医の廃業が相次ぎ、勤務医との比率が逆転しているという。また強欲な保険会社に医療の裁量権を奪われ自尊心を傷つけられ、患者にも理解されず訴訟のストレスにさらされるためか、自殺率のトップは医師であるという(堤未果著:沈みゆく大国アメリカ)。
1年前に社会保障の充実という口実で3%の消費税増税が行われ、年間6兆円の増収になったにも拘わらず、地域医療介護総合確保基金には国費わずかに600億円、今度の改革法案でも国保改善に3400億円の国費投入程度であり、明らかに公約違反である。
医療、介護、年金を問わず、社会保障費を削減し、改憲することばかり考えている安倍政権には、社会保障や医療保険の改善は全く期待できないことは明らかである。国民皆保険をより良いものにするためにも、保険医として「アベ・ノーサンキュー」の大きな声を挙げなければならない。