【2013.3月号】現物給付型医療保険の導入はTPPヘの地ならしである
最近、民間生命保険が医療や介護サービスそのものを給付する現物給付型医療保険の開発に乗り出している。日経新聞の報道によれば、金融庁がその認可に一歩踏み出しているようである。
現在の法律では、保険会社が直接に現物給付、すなわち保険金でなく医療・介護サービスそのものを提供することは認めていない。疾病保険はあくまで現金給付型保険である。
したがって現物給付型医療保険では、生保や損保の子会社や提携事業者からサービスを提供する方法が検討されている訳である。この場合、対象となるサービスは保険外診療、すなわち自由診療であり、サービス価格は保険会社と提携事業者との契約交渉で決められる。この保険「商品」は法改正がなくとも実現可能であるらしい。
どこか健保の特定健診での集合契約と似ている感がないでもないが、要するに生保・損保の方がサービス価格を設定する力を持つことになろう。安くて質の良い事業者と契約して顧客(被保険者)を確保していくという流れが予想される。
今の社保・国保の3割負担に対して、現物給付型保険の窓口負担は0割であり、お金がある人は公的社会保険に入らず、保険料が少々高くても保険外診療までカバーするこの民間保険を利用することも予想される。このままでは医療格差が広がり、国民皆保険制度が崩される危機が予測されないだろうか。
提携する医療機関は、少々サービス価格を値切られても、金のある患者を紹介してくれる保険会社に屈服することになるかも知れない。
この構図は米国型の管理医療そのものであり、映画「シッコ」で観た世界である。要するに医療介護の営利化、商品化が進み、お金の切れ目が命の切れ目となる社会が本格的に到来することになろう。
これは、例外なきサービスの自由化、非関税障壁での完全なる撤廃を求める米国資本とのTPP交渉の地ならしという結果をもたらすものに他ならない。
わが国のとるべき道は公的医療保険の充実による国民の健康水準の確保である。民間保険会社の市場が拡大して利益を売るのは誰なのか、損を被るのは誰なのか、公的保険制度の充実が商売の邪魔になっていると考える人間は誰なのか、よく考えて参議院選に臨みたいものである。