主張

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【2013.4月号】TPPに日本の将来ビジョンを託すことはできない

 3月15日、東北大震災2周年が過ぎるのを待っていたかのように、安倍首相がTPPへの参加を表明した。
 首相の記者会見で語られたことの一つは、「TPP交渉参加は国家百年の計だ。今を逃すと日本は世界のルール作りから取り残される」という。
 政府の調査資料でさえ、日本の農林水産業は3兆円の生産額減少が予想されるという。ここで損失があっても他の商業貿易分野で利益が生じ、差し引き3兆円強のプラスになるというロジックである。これでは日本の農林水産業の未来は描けるはずもなく、後継者が育つはずもない。どうして安倍首相はこれを国家百年の計というのであろうか。
 また脅し文句のように「世界のルール作りから取り残される」というが、中国、韓国のような東アジア近隣諸国が参加せず、インドやロシア、EU諸国が参加しないTPPがどうして「世界のルール作り」といえるのであろうか。
 冷静に考えてみれば、投資家対国家の紛争解決を世界銀行傘下の国際仲裁所で行うというISD条項で明らかなように、TPPは企業活動の自由を最優先することが明らかな協定である。決して互恵的な国家間の平和的共存を前提にしてはいない。
 首相が記者会見の最後に付け加えたこと、「安全保障やアジア太平洋地域の安定に寄与する」という発言こそ本質的なものである。まさにTPPが、当初の自由貿易圏の拡大から大きく反れた日米同盟の強化にあることが公然と言われたのである。
よく知られているように、交渉は非公開で行われ、国会にも知られないような秘密交渉のもとに置かれている。これは米国でも同じであり、連邦議会の委員長でさえ情報がまったく知らされていないことが判明した。まさに安全保障の交渉そのものではないか。
 医療界には国民皆保険制度が守られればTPP参加はやむを得ないという意見もある。しかしこれはあまりにも楽観的な話である。ずっと以前から国独自の薬価制度を主張しているTPP参加表明国のニュージーランドの要求が暗礁に乗り上げていると伝えられている。米国流の考え方がTPPと共通しているという米韓FTAでは、富裕層向けの自由診療病院の設立が認められたが、これによって保険会社など営利企業による医療経営に道が開かれたことになった。これらはすべて米国主導の多国籍企業の権益を保護するためとしか言いようがない。
 こうした企業活動優先のTPPが国民の幸せを優先的に考えるはずがない。そもそも交渉の当事者は官僚たちであり、農業生産者や消費者などの利益代表者が交渉には全く登場しないのである。
 あまりにも理不尽な交渉が公開されてこそ真の貿易協定になるのであり、国民が納得できるものである。現在のTPP交渉は、こうした国家間の相互互恵関係、交渉ルールの民主主義を欠いており、とうてい認めることができないものである。