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【2012.7月号】生活保護バッシングは社会保障の貧困を隠すものである

 6月13日、厚生労働省は、今年3月末の全国の生活保護受給者が210万人を超えたと発表した。これを受給世帯数でみると152万8千世帯となり、過去最多を更新したことになる。また生活保護の給付総額は今年度で3兆7千億円を超える見通しとなった。
 折しも、某お笑いタレントの母親が生活保護を受給していたとして自民党女性議員によって国会でも取り上げられ、マスコミの格好の話題となった。つまり「不正な受給」ではないかとか、親族の「扶養義務」を法制化すべきといった議論から、国民年金の水準に合わせて生活保護給付水準を10%引き下げよ(自民党プロジェクトチーム案)といった給付削減論まで登場し、まさに生保受給者バッシングの様相を呈している。
 実際はどうなっているのであろうか。厚労省の数字でみてもいわゆる「不正受給」は2010年度で約2万5千件、総額128億円(1件当たり51万2千円)であり、全体の0.4%に過ぎない。
 一方、国税庁が摘発できた脱税額は2008年度で218件、総額350億円(一件当たり金額は約1億6千万円)に上っている。実際には国税庁が把握しきれない脱税額はこの何倍にもなるであろう。生保の不正受給より遥かに多い金額が脱税で不正に蓄財されている現実がある。
 そもそも日本の生活保護費は国際的にみても驚くほど少ない。1999年の数字であるが、対GDP比で日本が0.3%に対し、英国4.1%、仏2.0%、独2.0%、米国は3.7%、OECD平均でも2.4%であり、先進諸国平均の8分の1程度の出費に過ぎない。給付対象者の総人口に占める比率を見ても1.4%程度で、OECD平均の7.4%に比し格段に少ないのである。
 また現在の生活保護制度では、そもそも扶養義務を課していない。あくまで世帯単位でのセーフティネットであり、自立支援である。もしも扶養義務が強制化されるならば、扶養義務者とされる親族の生活まで共倒れする危険があり、そうしてまで保護を申請する老親はどの程度いるであろうか。
 さらに生活保護給付水準を切り下げよとの主張には、今の社会保障制度の貧困、すなわち公的年金制度の貧困を容認するものである。年金給付が生活保護基準と同一、ないし上回るものであれば、そもそも65歳以上の世帯で生活保護は生まれない。年金が少ないから生活が成り立たないのである。
 急ぐべきは公的年金給付の充実であり、貧困と格差是正のための最低条件なのである。