【2025.4月号】高額療養費制度の改悪は、社会保険制度運営の禁じ手である
令和7年度政府予算案に、わが国の社会保険制度の土台を揺るがす「禁じ手」予算が突如出された。それが高額療養費上限額の見直し=引き上げという予算案である。石破内閣は来年度からの高校授業料無料化の合意という姑息な手段で維新の会を取り込んで衆議院を通過させたものの、全国がん患者団体連合会の「治療を最初からあきらめたり、中断が続出することになる」という強い訴えと医療団体の反対の意思表明を前にして、前例のない予算案の修正に追い込まれた。
骨太方針にも書かれなかった大幅な引き上げ案がなぜ出されてきたのか。報道が伝えるところでは、一昨年12月に「全世代型社会保障構築会議」に見直しが盛り込まれ、昨年11月の同会議である構成員から見直しを急げとの意見が出され、21日の社保審医療保険部会に厚労省から引き上げの方向が出されて予算案に急遽差し込まれたということである。理由は「現役世代の保険料負担の軽減を図る」ためである。
結論からいうと、こういう考え方は、生涯にわたるセーフティネットとしての社会保険(社会保障)を否定し、保険料を安くして「手取りを増やす」ことに執着する「今だけ、金だけ、自分だけ」という“3だけ主義”にほかならない。
もちろん国民医療費が増加していることは事実であり、高額療養費の最大の原因ががん治療薬を代表とする高額な薬剤に起因することも明らかである。しかしこうした流れは医療技術の進歩に根ざしているのであり、これを享受する権利は国民の誰にでもあるはずである。またこのことは近代民主主義国家の目標でもある。
問題は社会支出の増大を避けるために、患者(受益者)負担という禁じ手を安易に繰り出してきていることである。自己責任による経済的負担に耐えられなければ最適化された治療をあきらめるというペナルティを甘んじて受けよ、ということを意味する。そうなれば国民は将来に向けての生活に安心できるはずがない。
政府は高額薬剤の抑制策の研究に力を入れよ
政府がやることは、高額な薬剤の抑制策を真剣に考えると同時に、社会保険制度の持続可能性のためには、大企業の異常な内部留保の増大に対し適正な法人税負担を求めることを研究すべきである。
OTC薬剤を保険薬から外して4兆円の国民医療費を削減せよという某政党の主張は診療報酬の10%カットに相当し、保健衛生費用の国民負担増はさらに増大する。これが横行すれば日本の保険医療は崩壊の一途をたどるリスクに直面する。医療界も対抗して改善案を示さなければならない。
参院選を前にした各政党は、高額薬剤の増加の中で社会保険制度を維持するためにどういう施策を打ち出すのか研究し、国民に問うべきである。健全な社会保険制度が健全な労働力の確保のためにも必要不可欠であり、当然使用者側の保険料負担割合増も検討されるべきである。さらには税金の使い道の根本的な見直しこそ国政選挙の争点になり、国会での喫緊の課題にならなければおかしいのではないかと思う。