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【2024.5月号】長引く医薬品供給不足、国内での安定生産を確保せよ

 保険医薬品の供給不足が深刻化してすでに3年以上が経過した。この間、厚労省は製薬業団体へ増産体制を促す要請を繰り返し出しているが、医療費適正化方針でゆがめられたわが国の薬事行政の弱点が是正される方向は見えていない。
 2007年に政府が「経済財政改革の基本方針」で増加する医療費を抑える目的で先発品より価格が安い後発薬の使用拡大を打ち出してきた結果、21年度の後発薬の占める割合は数量ベースで約8割に到達した。
 この間後発薬は医療を大きく支えてきたが、一方で中小メーカーの品質管理の不祥事による生産停止や薬価の切り下げによる不採算薬の生産縮小の影響も拡大した。さらに新型コロナウイルス感染症の流行も重なり、医薬品供給不足が深刻化している。
 現状を見ると、国内の後発薬は多数の中小メーカーが取り扱っている。そのためメーカーは医療機関や薬局への納入価格で差別化を図ることになる。納入価格を下げると薬価改定で薬価引き下げを招き、さらに収益性が下がるという悪循環に陥っている。
 このため、今年度の薬価改定では、昨年度から一部適用された「臨時・特例的」な不採算品再算定が全面的に実施され、1943品目の薬価が引き上げられた。しかしこれで供給不足が解消される見通しが立ったとはとても言えない。
 なぜかといえば、生産コストを下げるために原薬の購入先をインドや中国、ベトナムなど海外に頼ることになっているからである。このため生産国の事情や輸送問題が反映し、十分な調達量を確保できないという事態にもつながった。このため日本製薬企業連合会の調査でも生産を中止する(薬価の削除願の届け出)企業が増加している。
 また政府検討会では、この間の不祥事に対応して、後発薬メーカーに対して医薬品製造品質管理基準(GMP)の運用ができる人材の育成の仕組みや、品質に対する取り組みを可視化できる評価指標の活用などが議論されているようだが、相変わらず企業任せ、業界任せの対応である。
 この4月から、「後発品の安定供給に関連する情報の公表等に関するガイドライン」や、感染症法等で運用ガイドラインを設定して運用するというが、供給情報の迅速な公開だけで薬の安定供給が保証されるのか疑問が大きい。企業に増産を要請するだけでなく、問題の根本的解決に迫る政策の実行こそ、今求められているのである。

 医薬品の供給不足は、国民の安全保障にもかかわる深刻な事態である。その解決のために、医療当事者として政府厚労省に次のことを要求したい。
1 基本薬(エッセンシャル・ドラッグ)の後発品薬価を適正に引き上げること
2 原薬の海外依存を解消し、国内調達を促進する産業政策に力を入れること
3 先発品メーカーに対し、オーソライズド・ジェネリック薬品の供給を促すこと