【2023.4月号】健保法「改正案」の基本的考え方に異議あり
今、通常国会では後期高齢者医療の見直しを盛り込む健康保険法等の改正案の審議が始まっている。その内容の最大のポイントは、年収153万円を超える後期高齢者の保険料を増額し、これまで増え続けてきた現役世代が加入する健保からの拠出金、いわゆる「仕送り」を抑えるという仕組みを作ろうというものである。厚労省の試算では、総額で年800億円、これで健保組合の加入者一人当たり年間1,000円の保険料の軽減にとどまるものである。
こういう方策では現役世代から見て軽減策には程遠く、この見直しの本当の狙いは、結局のところ後期高齢者の受診抑制にあるといわなければならない。
さらに、今回の見直しで突然出てきたのが、これまで現役世代で負担してきた出産育児一時金の財源の一部負担案である。少子化対策に現役世代だけでなく、後期高齢者も協力せよということなのであろうが、いかにも政策の貧困を感じさせるものではないか。
財務省は、この改定案を「全世代社会保障法案」と称し、息のかかった社会保障審議会委員も使って、高齢者医療費の増加が保険財政の悪化の一大要因だと強調してきた。しかし、高齢者人口が増加すれば医療費や介護費が増えるのは自然のことであり、これを支えるのが国政の基本であることを軽視してきた。高齢者の医療費や介護療養費には5割の公費負担(法定)はあるが、これを固定化して改革の道を閉ざしているのがこの20年であった。他の不要不急の防衛予算などは国会審議もせず閣議決定で決めてしまうのに、医療や介護では常に冷遇であり、ここに積年の政治の貧困がある。
現役世代の負担減のために、国や企業に新たな負担増を求める
実質賃金の減少の中で、若くして非正規・派遣労働者という不安定雇用に脅かされている現役世代の実情がある。慢性的人手不足にある介護事業や保育事業でさえ、賃金上昇には程遠い現状である。
こういう中で現役労働者に経済的な希望を与え、結婚の条件を整えるためにも、斬新な本当の全世代型社会保障の解決策が必要になっている。それは国税の使い道にメスを入れ、新たな財源を確保することに道を開く以外にない。
そのためには、これまで税制上の優遇措置や人件費の削減で内部留保を積み上げてきた余力のある企業に応分の新たな国税負担を求めることである。
さらに先進諸国で一部実施されているように、健康保険料の企業(雇い主)負担分の増を適正に図ることである。技術開発やイノベーションのために使われる優遇税制はこうした負担を実施している企業だけに限定することも考えるべきである。
国会で多数意見にならないとこうした真の改革法案が成立しないが、保険医の運動はそうした空気を社会的に作り出すためにも必要な市民運動の一部であり、将来にわたって発展させていきたいと願うものである。