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【2023.2月号】新型コロナ感染症の5類引き下げにクリアすべき条件

 新型コロナウイルス感染症の第8波のさ中、政府が今春にも現状の2類から季節性インフルエンザと同等の5類に引き下げる感染症関連法を改定する方針を発表した。この背景には、現在主流のオミクロン変異株の軽症化、全年齢致死率の低下があり、一方で3年余にわたる罹患者や濃厚接触者の行動制限による社会的疲弊感が高まっていること、さらには通常の救急医療体制などの病床の維持に四苦八苦する医療現場の状況がある。
 これらの確かな事実がある一方で、5類引き下げということになると様々な問題が新たに発生するのではないかという懸念もまた出されている。その懸念を速やかに整理し、解決法を提示し、国民に説得力のある説明ができるかどうかが5類引き下げのために必要であろう。
 まず現在のオミクロン変異株の脅威が季節性インフルエンザ(以下インフル)と同等になっていると断定できるかどうかの懸念がある。問題はまだ現段階では高齢者や腎臓病や心臓病患者などの有リスク者の致死率がインフルの水準にまで下がったとは言えないのである。
 従って5類引き下げの条件の第一は、高齢者などの有リスク者に対する医療体制に感染症対策の枠を超えた急性期医療の整備が求められることである。このためには現行の地域医療構想や地域包括ケアシステムの一時的な見直しを含めた国の対応が求められる。
 次に、オミクロン変異株がインフル並みになるにはまだ時間がかかるとの専門家の見解があり、今後重症化する可能性も視野に入れた疾病対策が必要である。政府はいわゆる日本版CDCをスタートさせるとしているが、現状での研究体制は予算や人員等を含めて先進諸国に見劣りするという指摘がされている。免疫学やゲノム科学の専門家が含まれていないという指摘も見逃せない。この際、研究者の国外からの招聘交流を含め、国家百年の計に沿って抜本的な対策を講じるべきであり、新たな国産ワクチンや抗ウイルス薬の開発にも力を入れるべきである。
 さらに、感染拡大抑止手段としての効果が検証されているワクチン接種やウイルス検査等に自己負担が導入されるならば、その普及に経済的、社会的格差が生ずることは避けられない。これでは公衆衛生政策としては落第であり、これ以上感染を拡大させないためには、5類引き下げのセイフティネットとしての公費投入が必要条件である。こうした条件がクリアされるならば、国民は安心して5類引き下げを受け入れるであろう。
 また5類に引き下げることで現状の医療現場の困難性が是正されるかというと必ずしもはっきりしない。医療従事者としては、高齢者や重症化リスク者の犠牲を伴うような無責任な5類引き下げであってはならないということを強調しなければならない。例えば高齢者が罹患した時に、家族が仕事を休んで在宅で看護することが困難な家庭も少なくない。入院調整のコントロールセンター(現状は保健所)の廃止は混乱を招くことが明らかであり、重症度、介護度に応じた感染症ベッドの確保は一定程度は必要である。
 医療従事者も叡智を絞り、近い将来の5類引き下げに備えなければならないであろう。そのためにも引き下げの条件、整備されるべき医療環境について声を挙げておきたい。