【2022.8月号】与野党を問わず国会議員に国民が期待するのは徹底審議だ
参議院選挙は自民公明の政権与党の勝利に終わり、改憲問題では自民に近い立場をとる維新、国民両党を含む改憲勢力が発議に必要な3分の2の議席を得た結果となった。今後の国会運営では改憲の動きが加速するものとマスメディアは予測している。
しかし、今国民生活にとって重要な問題は、世論調査でも出ているように改憲ではない。改憲派の中には、ロシアによるウクライナ侵略がわが国でも起こり得る事態のように主張する向きがあるが、それはあまりにも短絡的な見方であり国民の不安を煽るものである。わが国は憲法前文で定めている理念にしたがって、紛争の平和的解決を目指す外交努力を先行させなくては周辺諸国の信頼を得ることはできない。
周辺国との平和外交努力を怠り、戦闘機やミサイル基地を強化すればするほど周辺国の疑心暗鬼が高まり、この地域の互恵的経済関係の発展に逆行するだけである。国会議員のだれもが平和外交の担い手として、武力によらない平和共存の道を切り開いてほしい。
今回の選挙結果を見て心配になるのは、与党が絶対多数を占めたことで国会での議案審議の緊張感が薄れ、委員会での論議が形骸化していかないかということである。
まずは選挙前に閣議で決定された「骨太方針」の国民生活に与える影響、国の将来にかかわる問題点を、国会議員には大いに議論してもらわねば国民が困ることになる。
例えば、賃金が上がらない中で物価だけが上がっていくならば、低所得者は窮乏化の道を辿らざるを得ない。このことは社会を暗くし暴力の温床を作る。社会保障や保健医療分野への公的支出が削られるならば国民皆保険制度が「保険あって医療無し」となり、健康格差の更なる拡大がもたらされることになる。
新型コロナ禍で露わになったが、ワクチン研究の遅れや医薬品や医材料など基本的な医療物資が外国依存になっている現状を放置したら国民の安全保障は崩れる。学術研究予算の積年の削減で、イノベーションの掛け声も空言化していないだろうか。
医療制度でいえば、病床削減が進む中、かかりつけ医の登録制が提言されているが、地域医療の実態や国民目線でみたらどんな問題点が生じるのか。地域包括ケア体制の確立というが、国全体の人口減少の中で高齢社会を健全に維持していくためにはどんな医療介護のシステムが必要なのか、国会でしっかり議論しているのであろうか。
こうした国の将来にかかわる諸問題で与野党を超えた国会での議論の活性化が求められている。国会が多数派による「採決マシーン」での議会運営になっていないか、私たち国民もしっかり監視していかなくてはならないであろう。