【2022.4月号】医療者として、プーチン政権の人命に対する関心の欠如は許せない
2月24日、ロシアがプーチン大統領の号令で、ウクライナを潰すための戦争を開始したことが、世界に、そして私たちに大きな衝撃を与えている。
私たちはシリアやアフガンで起こっていたことと同様な凄惨な戦争の実態を見せつけられている。特にウクライナでは避難できなかった子どもや女性、老人などの犠牲者が相当数に上っているという。一方で、背広姿でクレムリンの執務室にいてモニター画像を見ているプーチン大統領の姿に、人命に無関心な独裁者への怒りを禁じえない。
侵攻の3日前、プーチン大統領はロシア国民に対してウクライナとの戦争を正当化する55分のビデオメッセージを発表した。この中でロシアにとってウクライナはただの隣国ではなく、「歴史、文化、精神的空間の、譲渡できない不可分の一部」だと主張し、今のウクライナ政府がEUやNATOに加盟しようとしていることで、わがロシアはNATOの攻撃力の標的になろうとしていると危機感を煽っている。古今東西で、戦争を始める指導者が必ず行う国民の「愛国心」に訴えるプロパガンダである。
さらに驚いたことは、ウクライナが戦術核兵器や生物化学兵器などの大量破壊兵器を持とうとしていると言いがかりをつけている。かつて9.11同時多発テロ後にイラク戦争やイラン制裁を始めたブッシュ米大統領の言い訳と同じである。もちろん国際原子力機関や国連軍縮担当上級代表の中満泉国連事務次長はこうしたプーチン大統領の言動を根拠がないとして批判しているが、多くのロシア国民にはこの批判は伝わっていないであろう。ロシア国境に近いチェルノブイリ原発やクリミア半島に近い南東部の大規模原発を抑えたのも核問題がらみでロシア国民を欺く作戦のようにも見える。さらには、NATO側のウクライナ支援体制や経済制裁の拡大に対し、核戦力を特別態勢に移すよう軍幹部に指示をした。こうした核による威嚇は「核抑止論」という神話を吹き飛ばしたといえよう。
ウクライナに対する武力によるロシア属国化は、20年前に就任したプーチン大統領が周到に準備してきたといわれる。この間にチェチェン紛争やクリミア併合、その後のウクライナ東部の州の独立問題、最近ではシリア内戦でのアサド政権への武力支援など、いずれもプーチン政権にとって負け知らずの成果であった。この経験に沿ったロシアの軍事作戦の特徴は、人命への無関心、クラスター爆弾、病院施設を含む無差別爆撃、都市包囲で外部の支援を断ち切る作戦であり、この結果犠牲になるのは無辜の住民である。
こうした人命への無関心が支配することを医療者としては看過できない。
こうしたロシア軍によるウクライナ侵略を利用した安易な敵基地攻撃論、核共有論などが国内からも出てきている。こうした危険な動向に対して、わが国こそ非戦の平和外交を貫き、領土問題の対応でも粘り強く冷静に続けることが求められている。国家間の紛争は武力では解決にはならないこと、軍隊は住民を守れないこと、これが国際的にも、またわが国においても決して忘れてはならない歴史の教訓である。