【2021.10月号】歯科用金パラ合金の『逆ザヤ』問題を早急に解決せよ
「金・銀・パラジウム合金(金約12%、銀約48%、パラジウム約20%、銅他の金属20%を含有する歯科用合金、以下通称の「金パラ」と表記)」は、歯科保険医にとっては日常診療で最も馴染みのある「歯科材料」の一つであると共に、今世紀に入ってからは「頭痛の種」の保険材料。また医科会員にとっても「歯医者の銀歯に使われる金属」と言えば「ああ、あれか」とご理解頂けるであろう。
歯科保険診療の現場ではインレーと言われる「詰め物」やクラウンと言われる「被せもの」やブリッジに、また部分義歯のクラスプと言われる維持装置の「金具」等に広く使われれいる。金パラは、主成分の銀を中心とした銀合金に比べて金属としての強度、変色しにくさ等で優位性があり、またチタン合金と比べると加工のしやすさで優位性があり「優れた金属」として保険診療で広く使われている。しかし2000年以降、主成分の一つである金が投機目的により高騰を続け、また自動車の触媒にも使用されているパラジウムも需要が大幅に伸び高騰を続けた。その影響により合金の金パラも高騰を続けた。
その高騰の影響を「金パラ前装冠(いわゆる保険の前歯の差し歯)」の保険点数で示すと高騰前の1998年は1434点、現在の2021年10月時点で2100点と実に1.46倍になっている。
しかし、この保険点数には保険収載されている金パラの材料価格が反映されているとされているが、この間の金パラ合金の市場価格では98年当時30グラム1万円弱だったものが現在10万円と実に約10倍となっており、実際には保険償還価格が実勢価格を下回る「逆ザヤ」で大幅な赤字が続いている。つまり歯科医療機関の持ち出しという「献身的努力」で金パラを使う治療は成り立っているが、今、新型コロナウイルス感染症による患者減や感染対策費の増加で益々経営が困難になっている歯科医療機関へ追い討ちをかけている。
では何故「逆ザヤ」なのか?であるが、歯科医療機関は金パラを歯科材料商から日々変動する市場価格で購入するが、保険の金属材料費は公定価格でありこの公定価格は2年に1回の診療報酬改定に行われる「基準改定」と半年ごとなどの「随時改定」により市場価格に合わせるように改定される「建前」であるが、これが全く機能していない。問題は「基準改定」で行われる特定保険医療材料価格調査の調査結果が非公開となっていて価格決定ルールに透明性がない。「随時改定」で行われる調査は合金ではなく素材の金、銀、パラジウム、単体の市場価格を参照しているため合金自体の価格が反映されていない。また「随時改定Ⅰ」では5%以上、「随時改定Ⅱ」では15%以上の価格変動がなければ改定が実施されない。されても数ヶ月前のデータを基準にするためタイムラグがあり実態と海里する。つまり現行の改定システムでは高騰する金パラ合金を適正に保険償還すること出来ない。ここ何回かの診療報酬改定を見ていると「脱金パラ」ということで非金属の材料の導入が進んできたが、大臼歯部では強度的な問題で金パラに勝る材料の保険導入はなされていない。当面は金パラに頼らざるを得ないが、逆ザヤとならない適正な保険点数を設定することは困難ではない。素材の価格調査から合金の価格調査に移行すればよいのである。タイムラグの問題は保険適用材料である金パラを国が買い取り歯科保険医に配給する方法もあるのではないか。一日も早い根本的解決を望む。