【2019.10月号】患者負担増の行き着くところは医療“氷河期”の到来だ
またぞろ マスメディアを巻き込んでの“患者負担増やむなし”の大合唱が始まっている。骨太方針の黒幕の経済財政諮問会議は言うに及ばず、保険者の代表たる健保連も遅れてはならぬと論陣を張り出した。また年金生活者や自営業者など国保被保険者の政治的影響力が薄いことをいいことに、国保連は都道府県統一保険料による国保料の引き上げを容認する姿勢である。
一方、患者の窓口負担増は後期高齢者2割負担にとどまらない。現役世代の負担増の当面のターゲットは市販品類似薬の保険給付外しである。
従来から取り沙汰されてきた湿布薬や漢方薬、ビタミン剤や保湿剤以外に、有病率3割といわれる市販類似薬のある花粉症薬の保険外しが健保連から飛び出した。健保連の昨年度の決算見込みは3千億円超の黒字、協会けんぽも6千億円超の黒字と報道されているにもかかわらず、被保険者の利益を守らないというのは信じられないことである。
これは、高齢者人口がピークとなる2040年問題とからめて、高齢者が多額の医療費を使うからだという宣伝を先行させて、負担増へあきらめムードを期待しているとしか言いようがない。
こうした動きが何をもたらすか、マスメディアからの鋭い、思慮深い報道が少しも出てこないのは何故だろうか。厚労省記者クラブの政府への忖度だけなのか、ジャーナリズム全体の視野狭窄が起こっているのか、どちらかである。
一人暮らし、二人暮らしの高齢者世帯の急増が誰の目にも明らかになってきているが、現役世代の中にも、老後資金2千万円問題が象徴するように、高齢化に対応した経済的基盤が失われつつある時代に突入している。
こうした中で、患者負担増が何をもたらすか、深刻な実態に向き合わなければならない。
第一に、国保保険料の未納者(世帯)が今以上に増加し、負担増と相まって、少なくない高齢者が診療の場に現れなくなることが現実化することが考えられる。
第二に、ギリギリの生活費では、医療より食べることが優先されて当然である。平均的な貯金額では将来不安にかられて使われず凍結される傾向になるであろう。
第三に、医療のみならず、介護の利用負担額にも耐えられず、人間的な生活を送ること自体が危うくなる時代がすでに起こってきていることである。今や、年金の切れ目がサービスの切れ目になり、年金で間に合うという介護保険の登場で約束された社会は到来しそうもないのである。
その結果として医療“氷河期”の到来が現実の問題となる。つまり、より良く生きるために役立つ医療が存在しながら、それを有効に使うことができず凍結されたままになってしまう可能性が現実に出てきているのである。
すべての医療関係者がこのことを深刻な社会問題として認識することが必要であろう。今回の台風災害の中でも、やはり一番の弱者は高齢者であった。医療や介護も災害の前には歯が立たない現状である。
日本の国力がそんなに脆いものであるはずはない。金はあるところにはある、というのは国家予算の概算要求の内容や、大企業の巨額な内部留保額を見れば明らかである。
次の衆議院選までに、国民生活のあるべき将来についての議論が、各年齢層で広がることを期待したい。そのために何をすべきか、当保険医協会としても考えていきたい。