【2019.6月号】薬価算定に検証可能な透明性を望む キムリア3349万円に透けて見える製薬業界の戦略
5年ほど前の免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブ(オプジーボ)に続く、話題の新免疫療法であるCAR-T療法(患者から採取したT細胞にがん細胞を攻撃する遺伝子を組み込み患者の体内に戻す治療法)のキムリアの薬価が決まった。1回限りの投与だが3349万円という超高額薬価がついた。実際の投与ではキムリア点滴静注の技術料がさらに約4万8千点算定されることになる。
これまでの国際共同臨床試験では、奏功率約50%(1年生存率約50%)というが、若い人の化学療法抵抗性の急性リンパ芽球性白血病や同じく成人の化学療法抵抗性の悪性リンパ種(いずれもB細胞性でCD19陽性の場合)に適応とされ、当初の適応患者数は年間2百数十人、売上予想額70数億円と推定されている。
問題は高額薬価の根拠がどうなっているかである。キムリアの薬価は原価計算方式と発表されているが、保険償還薬価を決める薬価算定会議の資料や決定過程が非公開であり、専門家からもオプジーボの場合と同様、高すぎる薬価に疑問符がだされている。
報道によると、薬価を承認した中医協資料では、製品総原価に対する薬価算定組織に出されたメーカー側の開示可能な額は50%未満であったという。薬価算定会議で決まった製品総原価の2363万円に有用性加算35%、市場加算10%、さらに新薬創出加算が加わって、1000万円近い上乗せ薬価がついたのだと予測されている。
保険適応上は実施する施設側の条件も含めてかなり厳しい要件が課せられるが、これまで治療法のなかった一部の患者には大きな福音となることは間違いない。
しかし、名古屋大学小児科名誉教授でCAR-T療法の専門家小島勢二氏によると、名大なら原価100万円で製造できるという話である。さらにCAR-T療法では米国を凌ぐ症例数で治療を行っている先進国は中国で、名古屋大が北京小児病院に依頼した小児白血病の患者の費用も約100万円だったと語っている(全国保険医新聞4月15日号参照)。
こうした情報を考慮するとき、高薬価を要求するキムリア(製造者はノバルティスファーマ)の戦略の裏には利益のためには何でもするという多国籍製薬企業の狙いが見えているということだろう。こうした多国籍企業が日本の保険財政を食い物にしているという実態が残念ながら真相なのである。
将来を考えるとき、国として、国内の大学等で行われているグローバルな研究をもっと財政的に支援すべきである。そのことによって多国籍企業に食われることなく、自前の創薬研究を推進することこそ、わが国の科学技術立国としての発展に、さらに医療保険財政の健全化に寄与することになるのは間違いない。