【2018.6月号】患者も保険医も安心できる皆保険こそ必要 医療費削減ありきの議論に明日はない
3年前、安倍首相の「影の官邸」である経済財政諮問会議が、いわゆるプライマリーバランス(PB)の黒字化を5年間で達成するとして、「経済・財政再生計画」を策定した。それに基づき内閣は毎年「骨太方針」なるものを決定している。
最近ではPB黒字化の平成32年度達成がこのままでは困難として5年先送りという方針であるが、その原因の大半は歳出増にあるのではなく明らかに税収不足にある。
この20年来とみに税収減になったものは法人税である。よく言われるように、法人税の減収分を消費税が埋め合わせ、しかも企業の内部留保は史上最高の400兆円を突破した。
しかし、安倍内閣はこの事実に目をつぶり、PB黒字化を目指すために来年10月には更に消費税を10%まで引き上げようとしている。
この6月には経済財政諮問会議の意向に従い、「骨太2018」が出されるが、そこで国の歳出を抑えるための新たな国民・患者負担増が目論まれている。そのターゲットは社会保障であり、年金の給付削減は今まで以上に進めると選挙で負けるリスクが大きいので、結局受益者という「負い目」を利用した医療・介護保険にあるということであろう。
医療での負担増の第一は75歳以上の窓口2割負担、第二に経済成長ができなかった場合の医療保険の給付率を自動的に調整する仕組みの導入、第三に医療費の高い都道府県にペナルティーをかける地域別診療報酬の導入、第四は受診時定額負担の導入である。介護では要支援者への給付制限がすでに始まり、今後の負担増の第一は利用料の2割負担、第二にケアプラン作成・調整費用の利用者負担導入が考えられている。
これは、地域別診療報酬の導入を除けば、いずれも受診時・利用時の負担増に直接つながるものであり、受診・利用抑制であることは論を待たない。
この中で地域別診療報酬の導入(1点単価の引き下げ)は患者負担減になるように見えるが、その地域の病床や医療機関の減、診療科の閉鎖等で患者の移動をもたらし、結局は新たな患者負担につながることになるであろう。
このような経済財政諮問会議のやり方は国民皆保険制度の土台を揺るがし、所得格差、地域格差による健康格差を増大させることは明らかである。
この数十年間、財務省をはじめ政府機関、各種審議会の動向は医療費削減ありきの議論にしか見えない。経済財政諮問会議がPB黒字化を言うなら、まず率先して法人税減税を戻し、企業の内部留保の活用で不正規労働者を減らし、労働者の待遇改善を指示すべきである。
窓口での1割から2割への負担増が、少ない年金に頼る多数の高齢者にとっていかに大変な負担になってしまうのか理解できない、痛みを感じない政治家や役人が増えてきたことが恐ろしい。入院費の2倍化による早期退院の流れは地域から必要な病床を奪うことになるかもしれない。たとえ負担増が医療・介護費の削減になったとしても、一方で深刻な医療危機や介護危機を招き、結局は生活保護をはじめセーフティネットのための社会保障負担が増大する結果をもたらすことを政治家のみならず国民も知るべきであろう。