【2018.2月号】勤務医の過重労働をどう防ぐかが問われる「医師の働き方改革」
次期診療報酬の改定の陰で、医療界を揺るがせている大きな問題が「医師の働き方改革」に絡む労働基準法の改正である。
今通常国会で改正される予定の新労働基準法の医師への適用は、施行5年後の2024年度まで猶予期間が設けられることになっている。
この理由は、ただちに医師、とくに勤務医を時間外労働の規制対象にすると、たとえ医療法上の医師数を確保していても、待機医師の不在による救急医療や小児医療、産科医療などの地域医療の崩壊を招く恐れがあるからである。
一部には医師法第19条の「医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」という「応招義務」に抵触してしまうといった誤解があるが、非管理医師である勤務医が労働時間外という理由で診療を断っても、それは「正当な理由」であり医師法違反に問われることはないという法解釈が有力になっている。
明治以降の近代医療の社会化過程の中で、絶対数不足の医師に一定の犠牲を前提にしなければ医療が成立しなかった時代があったのは確かで、「応招義務」はその遺産である。
問題は、医師が何故長時間労働を強いられてきたかである。戦後の人口増(患者増)に応じた医師養成の遅れ、医療技術の進歩や専門分化に見合った医師養成の遅れ、都市部の狭い住宅環境を反映した病院病床増、加えて先進諸国にはない低医療費政策が相互に絡み合って医師不足が生じ、必然的に勤務医の過重労働が常態化したのである。
さらに医師研修の近代化の遅れは、寝る時間も惜しんで多くの患者を診るという研修が当たり前で、当直明けで外来や手術に臨まざるを得ない時代を長引かせることになり、皮肉にもそうした医師研修方式が日本の低医療費政策を支えていたのである。
そうした慢性的な医師不足に加えて、厳しい研修体制が続いていた病院で起きた医師の過労死事件が社会的問題となった。「医師の働き方改革」はまさにこうした若き医師たちの犠牲の中でようやく取り上げられるようになったのである。
一方で医師の学会発表準備などの「自己研鑚」時間の位置づけ、当直・宿直の「待機時間」と労働時間の関係もあいまいさを残したままである。
しかし、勤務上の「拘束時間」、院外に出られない時間は明確である。医局や病院の意向で準備にあたる学会発表準備も「拘束性」がある。こうした時間も勤務時間とみなして、時間外労働協定(いわゆる36協定)に含めて労働協約上明確にしていくことは可能である。女性医師の産前産後休暇や育児休暇などの協約厳守も当たり前の時代が来ている。
医師不足の実態を勤務医と病院管理者との間で共有しておくことが第一歩であり、医師労働時間の限度を明確に労働協約として定めていない病院には人が集まらない時代であると認識すべきである。
安倍政権が「働き方改革」を「歴史的大改革」というのであれば、まず医師不足を認めて医師養成数を先進国並みに確保することが大前提である。その上で誤解を招く医師法第19条の「応招義務」についても法改正を含む方向性を打ち出すことが必要である。