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【2017.6月号】「遠隔診療」の拡充で国民が救われるのか疑問あり

 安倍政権の閣外機関である規制改革推進会議は、5月23日、「規制改革推進に関する第一次答申」を発表した。この答申が規制緩和を主張している分野は農林水産業、雇用関連、医療・介護・保育、投資、次世代技術、ICT関連など、国民生活に直接関連する広範囲な分野にわたっているが、この中で、「投資等分野」の中に「IT時代の遠隔診療」という1項が盛り込まれている。
 これまで平成28年8月の医政局長事務連絡で「遠隔診療」が容認されているのは、離島やへき地等における患者の居宅(在宅)診療で対面診療が困難な状況にあるものが例示されている。また初診や急性期疾患は原則として除外され、遠隔診療でなければ当面必要な診療を行うことが困難な場合とされてきた。もちろん放射線画像診断や病理画像診断などのデジタル画像の遠隔診断は、保険診療上で血液生化学検査等の「モノの診断料」と同様の扱いを受けているのはもちろんである。
 しかし今回の「答申」の中身を見てみると、より広くICTを用いた「遠隔診療」ができるように本年度上半期中に厚労省医政局の新たな通知の発出を求め、さらにこれを次期診療報酬で評価することを求めた内容となっている。
 その具体的内容を見てみると、「初診時も可能」「全て遠隔で行う禁煙外来」「1回の診療で完結する疾病」「SNSや電子メールでの画像を活用」といった文言が並ぶ。公衆衛生的な感染症対策や保健指導的な内容ならともかく、個別的で患者の人権にもかかわる疾患の医療を、情報漏えいや遊び半分のアクセスが氾濫するSNS社会のシステムに乗せてもよいという内容になっている。
 こうした「遠隔診療」が医師の側の判断で診療打ち切りが可能かどうか、もしプライバシー保護を理由に中途で遠隔診療を断った場合には、顔もわからない自称の「患者」によって一気に攻撃的メールや偽情報拡散の渦に巻き込まれかねない。またこれまで遠隔診療が患者にとって対面診療と同等、あるいは有益だとするエビデンスも見当たらない。
 このような答申が医療界の議論を経ることなく出ること自体、医療団体と保険者、有識者間で真剣に議論を積み重ねている中医協を無視するものではないか。
 まさに安倍政権の「成長戦略」に乗って一儲けをたくらんでいるICT業界にはよい話ではあろう。しかし、国民にとって「遠隔診療」が「安心、安全の医療」と言えるか、医療の大事な一部である、患者同士、あるいは患者と医療者間の学びあいによる「納得」「共感」や医療者による「癒し」の効果が得られると言えるのか甚だ疑問である。
中医協はこの「答申」が持つマイナスの面についても大いに問題提起すべきである。画像診断などの電子的ツールの有用性は否定しないが、診療はあくまで対面の原則を基本に、「遠隔診療」はその補完でしかないことを明確に打ち出すことが求められる。