【2016.10月号】医師・歯科医師の需給問題を医療費抑制の道具にしてはならない
昨年2月、厚労省が「保健医療2035」策定懇談会なるものを突然設置し、その後『2035年、日本は健康先進国へ。』と題された120項目にわたる提言書が厚労大臣に提出された。その24項には「保険医の配置・定数の設定や、自由開業・自由標榜の見直しを含めた、地域の診療科の偏在の是正のための資源の適正配置を行う」ことが明記された。
この「保健医療2035」は公表直後に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針~骨太方針2015」に反映され、今年の「骨太方針2016」にも引き継がれている。
その流れで昨年12月には「医療従事者の需給に関する検討会」、その下に医師需給分科会が発足し、これまでに7回(本年9月現在)開催されている。
歯科医師の需給問題も医師との歩調を合わせるかのように「歯科医師の需給問題に関するワーキンググループ」が設置され、これまで5回にわたり開催されている。
そしてこの6月には医師需給分科会の「中間とりまとめ」が出された。この中で8年後の2024年には医師は充足するという過小な医師必要数の推計が出され、20年度からの入学定員の削減が図られようとしている。
このように急に医師需給問題が浮上してきた背景にはいったい何があるのか。
「骨太方針2015」は「人口構造の変化や地域の実情に応じた医療提供体制の構築に資するよう、地域医療構想との整合性の確保や地域間偏在等の是正などの観点を踏まえた医師・看護職員等の需給について」検討すると明記されている。当県も含めて全国的な一般病院の慢性的勤務医不足の現状があるにもかかわらず、医師需給の削減を急ごうとしている。
今政府が本腰を入れて各県に急性期病床削減を含む地域医療構想を策定させているのは、緊縮財政路線による医療費の抑制を目論んでいるからである。
ここで歴史を振り返ってみると、1983年1月に当時の厚生省保険局長から「医療費亡国論」が出され、医学部定員減の時代に入り、その後2008年まで23年もの間医学部定員は7600人台で推移した。四半世紀にもおよんだ定員抑制はその後の全国的な地域医療崩壊を招き、結局緊急医師確保対策によって2008年以降の臨時定員増が行われることになった。2010年からは「地域枠」定員も導入され、平成28年4月現在、入学定員9262人となっている。
しかし安倍政権は「企業が世界一活動しやすい国」づくりを掲げ、高騰する薬剤費にはメスを入れることなく、医師や病床が増えることが医療費増加の最大要因とする「医療費亡国論」の復活ともいうべき緊縮財政を打ち出してきている。
一方医療界のなかにも、少子化との絡みで、将来の医師過剰予測を心配する傾向も存在する。さらに医師不足を地域偏在や診療科偏在の方が問題だとして、かつての大学医局中心の医師供給体制への復帰を求める意見もみられる。しかし2040年までは高齢者、有病者が増加の一途をたどるという確かな予測がある以上、今まだ需給調整の時期ではない。
また新医療技術の普及や安全な医療体制の確保のためにも必要な医師数は確保されなければならない。病院勤務医の長すぎる労働時間(最近の調査で週平均70時間)も改善しなければ、病院から立ち去る勤務医も後を絶たない。医師需給問題は決して医師だけの問題ではないのである。