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【2015.8月号】マイナンバー法改正案は出直すべきである

 集団的自衛権に基づく自衛隊の海外派遣を可能とする安保法制案で揺れている国会に、まだ大事な法案が二つ上程されている。一つは労働者派遣法改正案、もう一つがいわゆるマイナンバー法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)の改正案である。
 労働者派遣法については、派遣労働者の権利・擁護に関係しており、現に派遣社員を採用している、あるいは将来採用する可能性のある医療機関は注目すべきことは言うまでもないが、マイナンバー法はすべての医療機関に関係があるため、全国保険医団体連合会は現状での国会審議不十分として改正法案の撤回・採決中止を求めている。
 マイナンバー法による行政整備はすでに開始され、労働保険、年金や傷病手当金給付、住民票、所得税課税などでの共通番号付けが確定しており、さらに今回の法改正で預貯金の口座番号、特定健診や予防接種の番号付けに拡大するというものである。
 では何が実施上の問題点として浮かび上がってきたのか。
 それは共通番号という個人情報の保護・保全が不完全極まりないということである。それを証明したのが年金機構の120万件を超える個人情報の漏出事件であった。
 これにより、政府説明の各種証明書発行などでの利便性よりも、国民は不快な情報漏えいに悩まされることになり、本人なりすましの被害、口座引き落とし、預貯金引き出しなどにつながる財産保全への不安などが現実味を帯びてきているのである。現にこれらの事象はすでに番号導入の米国や韓国などで日常茶飯事に起こっていることである。
 さらに、国会審議で明らかにされたように、政府説明の行政簡素化や効率化も疑わしく、初期費用数千億円、維持経費数百億円という支出が、果たして増税など利用者負担にならないとも限らないことも浮かび上がってきている。
 確かに一部に利便性がよい部分もあるだろうが、果たしてそれが国民の望む利便性かどうかの世論調査もない。わけのわからない中間サーバーという電子情報管理システムの安全性も説明されていない。情報漏えいによって不利益をこうむった国民への補償問題も明確でないなど、問題点が多すぎる。
 政府は数年後には健康保険証にも共通番号を与える方針であり、安倍首相は国会答弁で医療での重複検査や重複投薬がなくなるとまで言明した。そこまでの個人情報の集約を行うことが、情報漏えいのリスク以上に重要なことなのか、国民に問うべきである。情報漏えいに関しては医療機関もその責任を問われることは必然であり、医療界が黙って見過ごす問題ではない。
 今国会のように重要案件がある中で、そのどさくさに紛れて強行採決などにならないよう、法改正案はいったん廃案にし、再度十分な国会審議と国民への説明を行うべきである。