【2015.6月号】医療費抑制ジェネリック80%目標は方向が違うでしょ!
政府は5月26日の経済財政諮問会議で、医療費抑制のためジェネリック(後発)医薬品の処方割合を2020年度末までに80%に拡大するという目標を提示した。この処置で医療費が1兆3千億円削減できるということらしい。
近年の保険医療費の増加は、人口の高齢化、医療技術の進歩に加え、入院及び調剤薬剤費の増加が要因となっているが、中でも薬剤費の伸びは医療費総体の40%、金額でいえば増加分だけで4兆円弱を占めるだけにその影響が大きい。薬剤費の占める割合を考えると、人件費に相当する技術料の伸びや比率は微々たるものである。
現在の医療用医薬品の実態はどうなっているかというと、後発品なしの先発医薬品の金額シェアは49.3%とほぼ医薬品に関わる保険医療費の半分である(平成24年10月中医協資料)。特許切れにより後発品がある場合でも金額では31.7%のシェアがあり、併せて先発品メーカーは81%という膨大な医薬品市場を占有していることになる。
いうまでもなく先発品薬価の約10年~13年という特許期間中の薬価が新薬加算措置によって高水準であることが薬剤費を押し上げているのである。かつて保団連が行なった国際比較では、公的保険薬価の無い米国を除くと、同一規格品の薬価が英独仏に比較して1.2~2倍高いことが明らかになっている。
こうした先発品への優遇措置を止めることが先決である。しかも先発品メーカーの株主の大半が外資系であることにも留意すべきであろう。国民が払う保険料が外資系製薬資本に吸収されていく構造がみえている。TPPやTiSAといった新たな経済協定の動きも、薬剤の価格問題、特許問題に絡む大きな国際的な問題になっている。
ところが今、財政諮問会議という隠れ蓑を使って、政府財務省の矛先は後発品を普及させようとしない医師と患者に向かっている。それは特許切れ後の先発医薬品の薬価(保険給付基準額)を後発品の平均薬価に設定して、差額を患者に負担させるという新たな薬剤差額制度を提示していることである。また、後発品使用が少ない医療機関や薬局へのペナルティ(減算措置)もいろいろ出てくることが予想される。
医師の不安は、後発品の品質への不信があることである。特許の重層構造によって成分が同じでも賦形剤や溶出技術の特許保護により、先発品とは違う生物学的吸収動態を示す後発品があるのである。製造原材料(バルク)でも安価な原材料を求めてインドや中国、韓国からの輸入品が増えているという。国は本当に品質を確認して認可しているのかと疑いを持っている医師も多い。
医師団体として、良質で安全な医療を期待する患者のためにも、後発品への切り替え圧力の前に「もっとやるべきことがあるでしょ!」と言いたい。先発品への優遇措置に手を付けることをしない政府の方向性は、「それは違うでしょ!」と言いたいのである。