【2014.9月号】高齢者の肺炎球菌ワクチン定期接種の年齢制限は撤廃すべき
今年9月から乳幼児対象の水痘ワクチンと、10月から65歳以上対象の高齢者の肺炎球菌ワクチンの定期接種が始まることになった。この二つのワクチンの定期接種化に向けて長い運動を継続してきた関係者のご努力に敬意を表したい。あと、おたふくかぜワクチンやB型肝炎ワクチンの定期接種化が残されているが、これも速やかに定期接種化することを期待したい。
ところで、高齢者向けの肺炎球菌ワクチンの実施要項が公表されて驚いたのは、接種年齢の5歳刻みというやり方である。厚労省はその理由を「ワクチンの安定供給と接種する医療機関の混乱を避けるため、また予算確保の制約もある」としているが、全く姑息な話だ。
ワクチンの安定供給については業界を指導する立場にたってメーカーサイドにまかせればよいし、医療機関の混乱とは笑止千万な話であり、年齢ごとに選別する方がよほど混乱する。
すでに多くの自治体が助成を継続してきた経緯があり、こうした上からの規制は現場を混乱させるだけである。
また予算確保に至っては官僚の発想そのものである。何よりもワクチンは罹りやすく、リスクの高いものから始めるのが原則だ。どうしても予算うんぬんを言うのであれば、例えば75歳以上とか年齢の高いところから始めればよい。こうした公衆衛生の原則から外れる厚労省のやり方になぜ学会は抗議しないのか。
ところで、この成人用肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス)も他の多数の現行ワクチンの例にもれず外国製(米国)である。しかも30年も前に開発されたものである。日本の医薬品開発の中で特に遅れを取っているのがワクチンの開発といわれているが、今回新たに定期接種となった水痘のワクチンは岡株という大阪大微研で開発されたワクチン株が源流である。百日咳の無細胞ワクチンの開発も日本の成果である。
アベノミクスで成長戦略というのであれば、iPS細胞の再生医療だけでなく、実績や研究水準で引けを取らない国産ワクチン開発にも多くの予算をあてるべきである。いつまでも外国製薬メーカーの高い原価のワクチンに頼っていては情けない話であろう。医学界あげて、ワクチン行政の改善、ワクチン開発への重点的投資など、公衆衛生先進国への脱皮を図らねばならない。