【2014.6月号】医療介護総合法案の医療事故調査制度は欠陥法であり撤回すべきである
医療介護総合法案は5月15日に衆議院通過となり、参議院へ送付された。何としても今通常国会で成立させたいようだが問題が山積している。
そのうちの一つが医療法上で「医療安全の確保のための措置」とされた医療事故調査制度の創設である。もしこのまま法案が成立した場合は来年の10月1日施行となる。
まず診療所を含む医療機関の管理者は、提供した医療に起因する(疑いも含む)予期しなかった死亡や死産について、創設される「医療事故調査・支援センター」に報告する義務を負うことになる。
併せて遺族には予め説明をしなければならないとされたが、ここに問題が残る。管理者は義務化に従って疑い例も含めて報告することになるが、遺族にとっては、医療行為に何か問題があったので届けるのではないか、いう疑念を持たれることになりかねない。
また医師法第21条にいう「異状死の届け出」条項との関連も明確でないことも法曹界から指摘されている。
この報告制度が医療事故の再発防止を目的にしたものであり、医療担当者の責任を追及することが目的ではないことを総則で明記しない限り、遺族の不信はぬぐえないであろう。こうした点から考えると、「医療事故調査・支援センター」という表現に一考を要する。
また診療行為中の予期しなかった死亡であっても、遺族側も含めて診療行為に問題があったとするに至らない事例も明らかに存在する。こうした事例を除外する条項がないのも不適切である。
さらに、調査の対象になる医療担当者の人権やプライバシーの尊重が明記されていないことは、この調査制度が被疑者に対する犯罪調査と同列にみなされていることを意味する。
国際的な潮流では、医療事故調査では個人の責任は問われないことが法的に明記される傾向になっている。したがって調査に協力した医療関係者が遺族等から訴追されたり、刑事責任を問われることがないことを明記すべきであり、それがWHOガイドラインでも謳われているのである。
ついでながら、こうした調査にかかる費用をだれが負担するかも明確でない。異常分娩で重度障害を持った脳性まひ児の介護費用に充てられる産科医療補償制度は、現在医療機関の掛金でまかなわれているが、それにも異論がある。
厚労省や財務省はこの制度の費用を医療機関も負担すべきと考えているようだが、この制度は「遺族補償」制度ではないのであり、医療安全確保のためにも国の費用でまかなわれるべきであろう。
こうした制度的欠陥を持つ医療事故調査制度案は医療介護総合法案から分離し、公聴会にも十分な時間をかけて徹底した審議を行うべきであり、今国会での成立は撤回されるべきである。