【2014.5月号】「選択療養」は国民の求める医療水準に逆行している
3月27日、安倍内閣の諮問会議である「規制改革会議」において、「選択療養制度(仮称)の創設について」という文書が公表された。
これは、①治療に対する患者の主体的な選択権と意思の裁量権を尊重し、治療の選択肢を拡大できるようにする、②そのため患者が選択した治療については保険外併用療養費の支給が受けられる新たな仕組みをつくる、というものである。これをめぐる討議の中で、今後の課題とされた選択療養の「申請」にあたっての手続・ルールの考え方が、早くも4月16日に出された。
これまでの「評価療養」「選定療養」に続く第3の保険外併用療養費制度、すなわち公認された混合診療が、かなり急いで構築されようとしている。
これまでの経過を振り返ると、平成18年10月1日からは、特定療養費制度にかわって保険給付の対象とすべきものであるか否かについて評価を行うことが必要な「評価療養(例:医薬品や医療機器の治験)」と、特別の病室の提供など患者の選定に係る「選定療養(例:差額ベッドや金属床総義歯)」への再編成が行われた。この結果、保険外併用療養費のあり方が患者や医療者にとってはわかりやすいものとなったことは確かである。
ところが今回登場した「選択療養」は、これらの高額な医療資源導入のハードルを低くしておきたい外資系製薬企業や富裕層からの要求であり、たとえ導入されたとしても多くの国民がその経済的負担に耐えられるとは思えない。したがって併用される保険給付は富裕層の独占になりかねない。
国民は「評価療養」として安全性が確認された新たな診療手段は速やかに保険適用にしてほしいと願っている。そして保険外併用療養、混合診療の放置は経済格差による受診格差を生みだし、さらには健康格差につながることになる。 混合診療は保険診療の拡充の妨げとなり、低報酬固定化をももたらしている。
また医師-患者間の同意を前提とした「選択療養」は、医師-患者間の情報格差までは解消できず、患者側に過大な負担を招くことは避けられないであろう。
医療水準の進歩は保険診療にも反映されなければならないのが当然であり、そのため国民の保険料負担が増大したとしても低所得階層への配慮を行うことによって納得は得られよう。実際に国民皆保険制度の歴史は医療費増大による国民医療の充実の歴史なのであり、医療は決して富裕層に独占されてはならないのである。そうした国民と医療者の合意に基づかない「選択療養」は撤回されなければならない。