主張

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【2012.新年号】指導・監査問題を抜本的に改善するために

 保険医にとっては、指導・監査問題を避けて通ることができない時代になっている。何故そういうことになっているのか、その背景には次のような問題が存在している。
 一つは、国保や健保の財政運営上、何を措いても診療点数を抑制しなければならない、という財政至上主義からの発想である。この発想は、加入者(被保険者)に最良最適の医療を保障することよりも、医師の診療行為を抑制したいという必然的ともいえる誘惑を生じさせることになる。
 もう一つの背景が電子請求システムと連動した保険者側の対応の問題である。今日、多くの保険者がいわゆる「削り屋」というレセプト点検業者に外注している実態がある。ここでは、医療機関の請求金額の何%かを削ることが期待されている。本年3月請求分からは縦覧点検が開始され、日数制限、回数制限、用量制限に関わる診療行為への査定・減点が強化されることが予測される。
 保険制度の中では、医師が自由裁量権をもって診療できるということではなく、これには保険診療に特有のスキームがある。それが厚生労働省令としての療養担当規則や診療報酬点数表である。
 仮に療養担当規則があまりにも前近代的、非科学的で現実の医療水準を維持することができないとしたら、医療者としてその不合理条項の改正を求める権利があるが、こうした動きはあまり耳にしない。
 この療養担当規則や診療報酬点数の運用について、行政庁が行なうのが集団指導や集団的個別指導であるが、これは行政手続法に則った懇切丁寧な教育的指導でなければならず、ペナルティを前提とした指導ではないことは法的にも確立していることである。
 なかでも集団的個別指導の選定対象が診療科平均点数の上位8%と機械的に決められていることは全くおかしなことであるが、この選定方式の法的根拠は何もなく、その改善を求める運動を全国的に強化することは焦眉の課題である。
 また集団的個別指導が複数年連続することで個別指導の対象となることも、結果として診療点数を下げる萎縮診療を狙ったものとしか言いようがない悪運用である。
 最近新潟県で若き保険医の個別指導が引き金なったとみられる自殺が伝えられた。こうした悲劇を繰り返さないために、医師の人権がしっかり守られる審査指導制度を実現しなければならないと考える。