【2011.9月号】問題点だらけの「社会保障・税に関わる共通番号制度」
政府与党は、本年1月の「社会保障・税に関わる共通番号制度に関する基本方針」に続いて、6月末には「社会保障・税一体改革成案」を決定した。その後はこの『一体改革案』を下敷きに、今秋以降の国会に『共通番号制』法案を提出し、その後来年4月の次期診療報酬・介護報酬同時改定に向けて医療・介護サービス基盤整備の一括法案を提出する方針と伝えられている。また消費税の増税を実施するための法案も本年度中の国会に提出する方針といわれる。
今後の社会保障制度や医療・介護保険の根幹を左右するこれだけの重要法案が、震災復興も原発事故収束も遅れ遅れのこの時期に次々と繰り出されるのは一体何故なのか、その狙いは何なのか、国民は知りたいはずであるが、充分な説明はなされていない。
ここでとくに注目したいのは『共通番号制』の導入が先鋒に位置づけられていることである。その理由は、低所得者対策という名目で『一体改革案』で示されている社会保障4経費(年金・医療・介護・子育て)の中の4分野(医療・介護・保育・障害)での自己負担総額に上限を設けるという「総合合算制度」のためとされている。
少し分かりにくい話であるが、要するに個々の世帯員の年収総額と、納税額・保険料納付額を『共通番号制』の元で国が合算し一元管理するというのである。そうすると、年金や医療・介護を含む社会保障の給付と、税や保険料の納付額、医療や介護の一部負担との収支バランスが個人的に明瞭になる「社会保障個人会計」制ということになる。
つまり『共通番号制』は、一部に流布されている納税逃れ、未納付を無くすといったモラルハザード対策ではなく、国家がID番号をキーにして名寄せ・突合による個人の給付や納税・納付を一元的に管理するシステムであり、結局は「納税・納付に見合った給付」で社会保障財政支出の抑制を図る新自由主義の施策に他ならないのである。
本来、国民皆保険制度はその人にとって至適の医療サービスを現物で保障しようというものであり、金銭にすべて換算する『社会保障個人会計』は経済力で生命の軽重が決まる風潮をいっそう強めるだけである。また国がそこまで個人を管理することが果たして近代民主主義国家の精神と言えるかである。
またこの個人情報は、金融保険業界などにとっては喉から手が出る情報であり、いくら国が厳重に管理するといっても情報漏出は避けられないであろう。
問題点だらけの『共通番号制』の創設には強い疑問を持たざるを得ない。