【2023.12月号】診療所の経営基盤を揺るがす財務省・財政審の報告書
11月1日、次期診療報酬改定の行方に大きな影響をもたらす財政制度等審議会・財政制度分科会に財務省が提出した文書に対し、日医をはじめ医療界に大きな衝撃が走った。
その主な内容を3点に絞って取り上げたい。
第1点、「診療所の収益は過去2年間(21年と22年)で20年と比べて12%増加し、経常利益率は3.0%から8.8%へ急増、利益剰余金は約2割増加(看護師等の現場従事者の3%の賃上げに必要な経費の約14年分に相当)」という内容である。
これは財務局が38都道府県の無床の医療法人18,207(医科と記載していないので歯科を含む可能性がある)の経営状況のデータから調査したものである。このため、中医協では支払い側からも診療所の診療報酬の引き下げを求める動きが出ているようである。
COVID19の渦中にあった21年と22年を、20年(感染拡大による自粛が始まり、受診控えが拡大した初年度)と比較したというが、そのような計算が妥当なのかが大いに疑問である。今もって診療所への受診抑制は続いているのが実態である。
また全国の医科診療所は10万2千余り、歯科診療所も6万8千あり、調査対象の医療法人は11%弱に過ぎないのであり、これが全国の診療所を代表する数字なのか、誰も検証できないのであり、財務省の狙いが透けて見える。
第2点、財務省の資料では、医科診療所の1受診当たりの保険医療費の伸びはコロナ前の2019年度に比較して3年間で年あたり4.3%と大幅に増加したが、物価上昇率は年あたり1.02%で水道光熱費の上昇は経費の2%程度にすぎず、一方で医師の給与費は約4千万円(27%)になっており、これは極めて良好な経営状況にある、と断定している。
保険医療費の伸びがそのまま経常利益の増ではないことはだれでもわかるはずだが、医師の人件費が4千万円(院長は3千万円)という数字には正直、驚くばかりである。これがマスコミで手取りと解釈されてしまうが、平均的な保険医の所得とは大きな開きがあり、高額な住民税や所得税、保険料の負担については報道されない。また、開業費用の相当部分が経費で落とせない債務となっていることも知られていない。
財務省は診療所の極めて良好な経営状況を踏まえ、初診料、再診料を中心に診療所の報酬単価(現在1点10円)を引き下げ、診療報酬本体をマイナス改定とすることが適当と主張しているのである。財務省は診療所の点数切り下げを皮切りに、医師の給与所得に切り込む作戦を開始したといえよう。
第3点、診療所の報酬単価の切り下げを打ち出したことも驚きであるが、地域別単価の検討を打ち出したことにさらに驚かざるを得ない。
地域別単価とは、例えば、患者数の多い都市部の単価を1点10円から9.5円にする、あるいは逆に過疎地では1点11円なり12円にして開業誘致のインセンティブにするといった方向性を財務省が初めて打ち出したということである。
こうした地域別の単価の差は、介護報酬の中ですでに取り入れられているものである。介護報酬では、事業所経営のリスクとなる土地代の高さや人件費の高さで最高20%の上乗せが行われているが、医療保険制度にもこの方式を持ち込もうというものである。
そうなれば医師はより点数の高い過疎地に動くことが期待できるというのが財務省の狙いなのか、否、都市部に集中する医師の所得に切り込むことこそ、積年の狙いなのである。