【2023.10月号】岸田政権下の医療DXは日本の医療をどこに導くのか
岸田首相がマイナー保険証にこだわっている理由
岸田首相は現行保険証廃止については予定通り来年10月実施を前提に、内閣改造で河野デジタル相を留任させた。厚労相に武見敬三氏が就任したことで医療界の一部には期待感があるようだが、「私は医療関係団体の代弁者ではない」という会見での発言がある。
なぜ岸田首相が支持率の低下にもかかわらず保険証廃止にこだわるのかといえば、昨年10月に発足した官邸主導の医療DX(デジタルトランスフォーメーション)推進本部の本部長になっているからだと思われる。医療DXはデジタル化で医療の形を変容させようということが目的であり、これまでよく使われたIT化=医療業務の効率化とは意味が異なることに注意しなければならない。
DXの源流は安倍内閣下の2018年12月に、経済産業省による国際競争力強化のための「産業界におけるDXの推進」にあるとされる。労働者の平均賃金が韓国に抜かれ、中国の急成長を見て、停滞していた成長戦略アベノミクスの推進のために打ち出された大号令であった。それが今や医療版DXに及んだのだが、構成員には経産相がしっかり入っている。そしてこのDXの前提になるのがマイナンバーカードの普及であり、マイナポイント付与のお誘いで保険証との一体化、個人医療情報とのひもづけが行われた。
本年6月の閣議決定で「デジタル社会の実現にむけた重点計画」が出されたが、準公共分野のデジタル化の第一が医療DXであり、「より効果的かつ効率的で質の高い医療の提供」がうたわれた。この表現は決して医療を成長充実させようというのではなく、“準公共分野”、つまり社会保障的な医療や介護の公的負担を縮小させる狙いなのである。
果たして医療DXで国民にとって最適な医療になるのか?
医療DXの最大の目玉は、政府主導のオンライン資格確認等システムを拡充した「全国医療情報プラットフォーム」である。これは、全国の医療機関の電子カルテ情報の共有サービスを図り、個人医療情報(PHR)の規格化を図り、匿名化したうえで民間事業者によるその二次利用(利活用)を図るというものである。このことが国民や患者にとってどれだけ有用なのか、誰も検証できていないシステムを一方的に作るというのである。
さらにこの電子カルテシステムは中小規模の病医院を含むすべての医療機関への導入を国の責任で目指すとされている。これではまさに全体主義的な管理医療システムを作るというものであって、医師のプロフェッショナル・フリーダムは全く無視されることになるであろう。
医療DX推進本部の資料をみるといろいろなメリットが強調されている。例えば、薬剤の重複投与や禁忌薬を受け取ることがなくなる、過去の検査状況が閲覧可能、検査の重複がなくなる、電子処方箋によりオンライン診療が受けやすくなる、医療・介護関係者で情報が共有されよりよいケアが受けられる、心肺蘇生に関する自分の意思が共有され自らが望む終末期医療が受けられる、新たな医薬品の研究開発が促進される、といった良いことづくめのオンパレードで、起こりうるシステム不良によるデメリットについては一切触れていない。
こんな形で、日本の医療がデジタル化で変容していくことを、時代の流れとして黙って受け入れなければならないのか、医療界の反応が国民から注目され、問われている。