【2023.8月号】具体性がなく、希望ある未来が見えない骨太方針
6月16日、「加速する新しい資本主義~未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現~」と銘打った「経済財政運営と改革の基本方針2023」、いわゆる新骨太方針が閣議決定された。
45ページほどの文書だが、コロナ禍で疲弊した国民をねぎらい、希望を持たせる具体的な政府の方針は少しも見出だせない内容である。
例えば、新型コロナ感染症の法的位置づけを5類に変更した後の感染症危機への対応は「内閣感染症危機管理統括庁」を設置して司令塔機能を強化するというが、これまでの検証から何をどう変えるのかは不明であり、質の高い科学的知見を提供できる「国立健康機器管理研究機構」の創設は25年度以降になるという。
医療従事者や国民がこれからの新型感染症対策で切望することの一つは、外国の製薬企業頼みでなく安全で有効な国産ワクチンを迅速に創り出すことではなかったか。こうした問題には一切言及せず、相変わらずマイナ保険証など「デジタル技術を活用したヘルスケアイノベーションの推進」の掛け声一辺倒である。このことで国民の健康の充実が図れるとは誰も思っていないであろう。
診療報酬の改善に背を向ける骨太方針
次期診療報酬・介護報酬改定については、「物価高騰・賃金上昇、経営の状況、人材確保、患者・利用者負担への影響を踏まえ、患者利用者が必要なサービスを受けられるよう必要な対応を行う」としているが、診療報酬や介護報酬を引き上げるのかといえばそうは読めない。
人手不足に悩む医療や介護従事者の待遇改善は原資である診療報酬の改善以外にあり得ないが、「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」が謳われ、相変わらずの医療費抑制路線であり、さらにレセプトのオンライン請求義務化で新たな負担を迫られる小規模医療機関は厳しい経営環境に置かれ続けることになろう。
その中で注意すべきは「長期収載品等の自己負担の在り方の見直し、検討を進める」と書かれたことである。この意味は、医薬品費の抑制のためにはこれまでの後発医薬品の使用促進では不十分で、先発扱いになっている医薬品の新たな自己負担を考えるという意味であり、新たな「保険外し」か「選定療養」の拡大をもくろんでいるとしか思えない。
いずれにせよ、医療への公費投入を含む社会保障財源の抑制は、GDP比2%を目指す軍事費増や「異次元の少子化対策」を打ち出した岸田内閣の避けられない選択肢なのである。
秋の保険医運動への一層のご協力を
オミクロン変異株による新型コロナの感染拡大も心配され、沖縄ではすでに第8波を超える感染拡大で医療崩壊一歩手前と報道されている。地域医療の崩壊を防ぎ、通院する患者や従業員を守り、医療経営を守らなければならない責務がまだまだ続くことは間違いない。
当協会は、会員の皆様の声を大きく結集して、全国の協会とともに国民医療と開業医を守る運動を推進する所存ですので、皆様の一層のご協力をお願いする次第である。