【2017.8月号】社会保険の財政健全化は国と企業負担で解決すべきである
財政制度等審議会が麻生財務相に提出した「経済・財政再生計画の着実な実施に向けた建議」の内容はあまりにも一方的である。安倍政権の「お友達審議会」の忖度と言ってしまえばそれまでだが、建議の第一項目で社会保障に狙いを定め、企業の社会保障負担を軽減させ、受給者、すなわち国民の負担をいっそう拡大させる内容である。しかしマスコミ関係者も審議会委員に多数取りこまれていることもあり、批判的な報道が少ない。
建議曰く、「社会保障支出が大幅に増加している一方で、国民負担率はそれと見合ったものとなっておらず、給付と負担のバランスが損なわれている」
いつものことであるが「国民負担率」という一括りを登場させ、ここが低いのでもっと増やせと言うのであるが、負担の本当の実態を反映していない。
「国民負担率」というのは、国民所得(ほぼ国内総生産GDP)にたいする消費税を含む国の税金と年金や医療介護の社会保険料負担の合計の割合である。日本は40%強で、米国を除く西欧諸国より低いと言いたいのであろう。
しかし「国民負担率」の計算には社会保険料の自己負担分、医療や介護の利用時の自己負担分(1~3割)は全く考慮されていない。わが国より「国民負担率」が高いという西欧や北欧ではよく知られているように医療や介護の自己負担がほとんどないかあってもずっと低い。社会保険料の自己負担割合もずっと低く企業の負担が大きい。社会保険とは異なるが教育費においても日本は国民の負担が大きく、国の負担が少ない。
したがってわが国の国民負担率が低いというのは一面しかみない宣伝であり、国や企業の負担の低さを隠ぺいするものである。
建議曰く、「こうした状況を放置しておくと、将来世代への負担のつけ回しが拡大する」ので「給付と負担の在り方の見直し等の改革を実行する」という。「将来世代への負担のつけ回し」とは赤字国債をいうのであろうが、「給付と負担の在り方の見直し」とは負担しないものは給付なし、あるいは負担に見合った給付に制限する、といった意味である。
なお、赤字国債を作り出したのは社会保障のためではないことはこれまでの経過で明らかであり、負担と給付の見直しを強調するのは医療も介護も社会保険方式だからということらしい。社会保険方式を強調するのは「公助」すなわち本来の社会保障理念を否定するものである。
保団連はこれまで社会保障充実の基本は「所得の再分配」だと強調してきた。利益を上げている企業や高所得者が適正な税負担を行うことなしに社会保障は成立しないのである。日本はこの20年というもの、法人税の軽減や消費税の引き上げで所得再分配とは全く逆の財政政策を実施してきた。このため長いデフレ経済から脱却できず、社会保障財源の確保もないがしろにされてきた。
建議では「負担能力に応じた公平な負担」を掲げているが、これは資産の保有状況を考慮して負担を増やすということで国保などがすでにやっていることである。だが何故事業者・企業負担に一言も触れないのか、あまりにも意図的である。
安倍政権が続く限り、国民の負担はますます重くなり、社会保障の充実、医療介護制度の改善の見通しがないことは財政審の建議からも明らかになっている。