【2012.11月号】復興予算の流用を許す政治の悪弊を糾弾する
混迷する国政のさなか、珍しく閉会中に開かれた参院決算委員会で驚くべき事実が明らかにされた。それは昨年度から5年間で19兆円が投入される復興特別会計での流用問題である。
この巨額な復興予算の中に、被災地の復興と直接無関係な「復興事業」が続出しているという事実である。これらの事業は、各省が復興計画と位置付けて予算化したものであるが、各省の官僚が復興のどさくさに紛れて、自分たちの都合のいいように予算をばらまいたものである。いかに官僚たちがごまかしや偽りの政治に手を染めてきたか、また民主党政権が謳ってきた政治主導がいかに底の浅いものであったかを余すところなく露呈した。
例を挙げてみよう。農林水産省が盛り込んだ23億円ものお金が調査捕鯨の補助金や妨害活動に対する監視船のチャーター代に流用された。いわく、調査捕鯨に出ないと石巻にクジラ肉を供給できないと。しかし被災地石巻のクジラ肉加工産業には補助金もなく壊れたままである。
法務省は被災地外の刑務所での受刑者の職業訓練関連費に流用した。いわく、受刑者たちが出所して被災地で働くかもしれないと。しかし被災地の商店街復興のための補助金は査定却下されるケースが多い。
国土省は遠く離れた沖縄の国道整備事業に流用した。いわく今後の防災対策上必要だからと。しかし岩手、宮城両県の河川津波対策事業費は今年度はゼロである。
文科省は完成の見通しもない核融合研究費に流用した。いわく被災地で産業や雇用を生み出す可能性があると。しかし原発被災地の子どもたちが県外に移動して学習する費用に国はゼロ回答である。被災地児童の医療費の無料化にも国は責任を果たさないでいる。
極めつけは防衛省の例である。自衛隊の情報保全隊用の連絡機材、車両無線機の更新に流用した。いわく核テロなどの防災活動のためと。しかし情報保全隊は防諜活動の専門部隊である。
いったい全体、この国は復興と言いながら何処へ向かって走っているのだろうか。
復興予算19兆円のうち10.5兆円は所得税に賦課される復興増税が財源である。被災地の一日も早い復興のためならやむを得ないと考えた多くの国民の感情から離反した官僚機構の倫理的な堕落こそ、そしてそれを見て見ぬふりをする政治家たちの堕落こそ、この国の不幸をもたらしている元凶ではないか。
総選挙が近づいている。この国を正すためにも、官僚の倫理的堕落を許さない政治家の登場が待ち望まれる。